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いすゞの「新興国車種」は収益を押し上げるか。“鬼門”のインドは未知数

清水秀和(証券アナリスト兼IMSアセットマネジメント社長)
いすゞの「新興国車種」は収益を押し上げるか。“鬼門”のインドは未知数

アンドラ・プラディッシュ州スリシティ工業団地に開設した新工場

 新興国でも人気車種いすゞのトラックは、特にタイ国内でのピックアップトラックのシェアは約5割と圧倒的に高い。技術力にも定評があり、故障の少ないディーゼルエンジンの製造は、大型車から小型車までを国内のマザー工場である藤沢工場を主体に生産する。海外向けは主力のタイ工場でピックアップトラック生産を手がける。国内の普通トラックでは日野自動車とシェアトップを争っているが、小型トラックに限れば首位の約4割のシェアを握る。

 昨春就任した新社長のもと、2018年3月期を最終年度とする3カ年の中期経営計画を発表した。数値目標は販売面で18年3月期にCV商用車38万台(15年3月期は33万台)、LCV小型商用車は44万台(同34万台)。売上高2兆2000億―2兆3000億円(同1兆8794億円)、営業利益率は3カ年平均9%(同9・1%)、株主資本利益率(ROE)は3カ年平均で12%(同17・0%)、配当と自己株式の取得合計した総還元性向は、20―30%を目標としている。

 18年春までに、開発から部材調達、生産まですべてについて、タイ拠点が主導する初の新興国が開発した事業モデル(耐久性を維持しながらコスト削減を進めた)による中型トラックを東南アジア向けに本格投入する。

 中国を除くアジアの商用車販売台数は15年3月期比37%増の8万2000台に引き上げる計画で、日本の販売台数を上回る規模となるもよう。同時に統合的な営業支援システムとしてデータを生かしたワンストップ営業体制(新車から部品、修理、中古車、販売金融まで)での稼働サポート強化を展開し、補修や部品・サービスなどの効率化を実施する。

 前期決算は従来予想は1200億円で最高益更新を見込んでいたが一転、2%減の1146億円となった。国内は大型トラックの出荷が堅調だったが円高で為替差益が減り、固定資産の処分に伴う特別損失も影響した。今期は前期並み。

 ただ、為替の影響を除けば売上高は若干のプラスで計画しているほか、インドでピックアップトラックの生産開始などは未知数とし慎重な目標数字である。

「挑戦なくして成長なし」(片山社長)


日刊工業新聞2016年5月9日


 いすゞ自動車は4月末、インド南部にピックアップトラックの工場を開設した。タイのピックアップトラック市場でシェア2位のいすゞ。同社の片山正則社長は「製品に自信を持っているが、インド市場は特殊性がある」と攻略の難しさを認識する。ただ経済成長率などを考えると進出リスクもあるが、「進出しないリスクもある」(いすゞモーターズインディアの山口真宏社長)とし、将来の成長に向けあえて一歩を踏み出す考えだ。

 「インドは誰が見てもポテンシャルがある市場であることに疑いはない」。現地法人の山口社長はインド市場の成長性に期待する。調査会社のIHSオートモーティブはインドのピックアップトラックの販売台数が2021年に15年実績比36%伸びると予測する。

 いすゞはインドで外資系メーカーとして初めてピックアップトラックの現地生産に乗り出し、部品の現地調達率を7割まで高めた新型車「D―MAX」を5月に販売する。同社によるとピックアップトラックを含む同じ車格の小型商用車の市場規模は年約20万台。インドのマヒンドラ・アンド・マヒンドラやタタ自動車など地場メーカーが大半を占める。主に市場(いちば)などで使われ、積載性も非常に高いという。

「物流品質」が求められる市場を育てる


 いすゞは13年にタイから完成車を輸入販売してインドのピックアップトラック市場に参入。13年末に現地自動車メーカーに車両の組み立てを委託するノックダウン生産に切り替えた。派生車のスポーツ多目的車(SUV)を含めこれまでに約3000台を試験的に販売。いすゞの片山社長は同社のピックアップトラックは地場メーカーと比べ性能や価格が上位に位置し、「一般的な使われ方とも異なる」と分析する。

 一方、同国では冷蔵品の配送やネット通販の増加が見込まれ、物流会社は荷主から荷物への負担の軽減や配達時間の正確性など「物流への『品質』が求められ始めている」(片山社長)という。

 例えば、冷蔵品の配送では冷凍機を動かすためエンジンに負荷がかかるが、D―MAXは地場メーカーと比べエンジンの馬力が大きく適性が高い。またサスペンションなど走行性能でも優れており、厳しい道路環境でも時間配送に対応できるとみる。

 片山社長は地場メーカーが形成する既存の市場ではなく「物流品質」が求められる市場を育てながら「顧客と一緒に成長していくイメージを持っている」と、新規市場の開拓に活路を見いだす。

<次のページ、タイへの部品輸出拠点に。車両の新興国輸出も視野>

日刊工業新聞2016年6月30日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
昨年、21年ぶりに全面改良した大型トラック「ギガ」に標準搭載されてる商用車用テレマティクス「みまもりくん」。国内の年間のトラック販売の2割程度が導入、今年中にはインドネシアでもサービスを始める。アフターの利益率は新車販売よりかなり高いとみられる。新興国でも浸透するかがカギ。

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