産業用ロボット市場は今年、本当にプラス成長できるのか
大手メーカーのキーマンに聞く。安川電機&川崎重工《#01》
産業用ロボット市場の拡大が続いている。産業機械全般の需要が低迷する中国でも、ロボット業界は依然として好調だ。日本ロボット工業会は2016年の総出荷額目標を、過去最高値の7500億円(前年実績比9・7%増)に上方修正した。国もロボット産業を支援するなど追い風が吹く中、業界大手はどこへ向かおうとしているのか―。各社の戦略に迫る。
自動車産業向けの溶接ロボットを中心に、幅広いラインアップをそろえる安川電機。2018年度にロボット事業の売上高を、15年度比10・3%増の1700億円とする目標を掲げた。足元では為替変動のマイナス影響があるものの、課題解決型の営業を推進し成長を継続させたい考え。今後はIoT(モノのインターネット)や人とロボットの協調など次世代技術の開発も重要になる。小川昌寛執行役員ロボット事業部長に展望を聞いた。
―販売状況はどうですか。
「16年度は台数ベースで前年度実績から5%程度伸び、金額だと為替の影響でほぼ横ばいになる見通しだ。15年に中国向けが一時鈍化し警戒したが、今は良い状態に戻っている。環境に大きな変化はなく、昨年と同様に各地でロボット市場の拡大が続くだろう」
―とはいえ、予測値は幾分控えめです。
「中国市場は停滞しているわけではないが、15年が変節点だったことは確かだ。これまでの急成長が続くのかという意味で、若干慎重な見通しを立てている。もちろん、予想が良い方向に外れることを期待している」
―中長期の成長戦略をお聞かせください。
「主要顧客の自動車業界では、レーザー溶接、摩擦攪拌接合(FSW)など新たな用途でロボットを活用するユーザーが増える。技術的な対応領域を広げて、こうした流れに追従していきたい。一方、新市場として期待されるのが、食品など非自動車の分野だ。ただ、新たな需要を取り込むにはビジネスの形態を変えなければならない。単にロボットを売るのではなく、ユーザーにソリューション(課題解決)を提供するべきだ。そのためには他事業部や他社との連携を強化する必要がある」
―IoT関連の開発も加速させています。
「(IoT化への対応は)ロボット事業を継続する上で必須条件になる。また、IoTでロボットが“情報化”することで、今まで以上に適用範囲が広がる可能性がある」
【記者の目・協業で新需要取り組み】
ロボット事業部は課題解決型への転換を目指し、サーボモーターなどを手がけるモーションコントロール事業部との連携を強化する方針。ロボットとサーボ製品などを組み合わせて提供し、新たな需要をどれだけ取り込めるかが注目される。また、IoT時代に向けて社外とも積極的に協業するという。ネットワーク、ソフトウエアなどの技術を取り込み、競合を圧倒する工場自動化(FA)システムを打ち出したいところだ。
(聞き手=藤崎竜介)
2018年度末までにロボット関連で計700億円強を投資する成長戦略を打ち出した川崎重工業。15年に投入した人と共存するロボット「デュアロ」を売り込みつつ、ブランド力の強化も図り事業の拡大を加速させる。足元では為替変動の逆風を受けつつも、中国、欧米向けなどの販売が引き続き好調。16年度も強気な目標を掲げる。橋本康彦常務執行役員に業況と今後の戦略を聞いた。
―デュアロの販売状況はいかがですか。
「1年目は350台近くを納入した。海外の電子機器製造受託サービス(EMS)企業、国内の食品関連企業などから多くの引き合いがあり、今年度は2000台を目標にしている。現在はユーザーが数台を試しに購入して導入効果を検証している段階。量産への適用がいつ始まるかは分からないが、本格的に採用され始めれば2000台は軽く超えるはずだ。3年目には5000台を売りたい」
―期待する用途は。
「さまざまな導入パターンを提案しているが、特にネジ締め、異形部品の挿入といった用途が有望だ。例えば、EMS工場で異形部品を扱う工程はまだほとんど自動化されておらず、マーケットは非常に大きいとみている」
―ロボット事業全体でブランド力の強化を目標に掲げています。
「これまでロボット事業は、特定の有力なお客さまのおかげで発展してきた。半面、一般に当社のロボットが浸透しているとはいえないのが現状だ。今後は展示会などで積極的にPRすると同時に、ショールームの拡充も検討していく」
―16年度の販売見通しはどうですか。
「中国市場は依然活発に動いており、自動車産業向けを中心に欧米も堅調だ。また昨年中国で始めたラインビルディング事業が今年度から売り上げに寄与するなど、好材料は多い。為替変動によるマイナス影響はあるが、台数ベースでは前年度実績から20%程度、売り上げは10%近く伸ばしたい」
【記者の目・油圧技術連携、独自製品に注目】
ロボット事業の15年度の売上高は前年度比約10%増の600億円程度。後半に為替変動の影響を受けたが、半導体向けロボットが過去最高実績を記録するなど台数は大幅に伸び、高い成長率を維持した。16年度は為替リスクを織り込みつつも、半導体が引き続き好調なこともあり、再び2ケタ成長を狙う。中期戦略では油圧機器事業との連携もテーマ。油圧技術を応用したロボットハンドなど独自製品をどれだけ生み出せるかが注目される。
(聞き手=藤崎竜介)
安川電機・小川昌寛氏(執行役員ロボット事業部長)
自動車産業向けの溶接ロボットを中心に、幅広いラインアップをそろえる安川電機。2018年度にロボット事業の売上高を、15年度比10・3%増の1700億円とする目標を掲げた。足元では為替変動のマイナス影響があるものの、課題解決型の営業を推進し成長を継続させたい考え。今後はIoT(モノのインターネット)や人とロボットの協調など次世代技術の開発も重要になる。小川昌寛執行役員ロボット事業部長に展望を聞いた。
―販売状況はどうですか。
「16年度は台数ベースで前年度実績から5%程度伸び、金額だと為替の影響でほぼ横ばいになる見通しだ。15年に中国向けが一時鈍化し警戒したが、今は良い状態に戻っている。環境に大きな変化はなく、昨年と同様に各地でロボット市場の拡大が続くだろう」
―とはいえ、予測値は幾分控えめです。
「中国市場は停滞しているわけではないが、15年が変節点だったことは確かだ。これまでの急成長が続くのかという意味で、若干慎重な見通しを立てている。もちろん、予想が良い方向に外れることを期待している」
―中長期の成長戦略をお聞かせください。
「主要顧客の自動車業界では、レーザー溶接、摩擦攪拌接合(FSW)など新たな用途でロボットを活用するユーザーが増える。技術的な対応領域を広げて、こうした流れに追従していきたい。一方、新市場として期待されるのが、食品など非自動車の分野だ。ただ、新たな需要を取り込むにはビジネスの形態を変えなければならない。単にロボットを売るのではなく、ユーザーにソリューション(課題解決)を提供するべきだ。そのためには他事業部や他社との連携を強化する必要がある」
―IoT関連の開発も加速させています。
「(IoT化への対応は)ロボット事業を継続する上で必須条件になる。また、IoTでロボットが“情報化”することで、今まで以上に適用範囲が広がる可能性がある」
【記者の目・協業で新需要取り組み】
ロボット事業部は課題解決型への転換を目指し、サーボモーターなどを手がけるモーションコントロール事業部との連携を強化する方針。ロボットとサーボ製品などを組み合わせて提供し、新たな需要をどれだけ取り込めるかが注目される。また、IoT時代に向けて社外とも積極的に協業するという。ネットワーク、ソフトウエアなどの技術を取り込み、競合を圧倒する工場自動化(FA)システムを打ち出したいところだ。
(聞き手=藤崎竜介)
川崎重工業・橋本康彦氏(常務執行役員ロボットビジネスセンター長)
2018年度末までにロボット関連で計700億円強を投資する成長戦略を打ち出した川崎重工業。15年に投入した人と共存するロボット「デュアロ」を売り込みつつ、ブランド力の強化も図り事業の拡大を加速させる。足元では為替変動の逆風を受けつつも、中国、欧米向けなどの販売が引き続き好調。16年度も強気な目標を掲げる。橋本康彦常務執行役員に業況と今後の戦略を聞いた。
―デュアロの販売状況はいかがですか。
「1年目は350台近くを納入した。海外の電子機器製造受託サービス(EMS)企業、国内の食品関連企業などから多くの引き合いがあり、今年度は2000台を目標にしている。現在はユーザーが数台を試しに購入して導入効果を検証している段階。量産への適用がいつ始まるかは分からないが、本格的に採用され始めれば2000台は軽く超えるはずだ。3年目には5000台を売りたい」
―期待する用途は。
「さまざまな導入パターンを提案しているが、特にネジ締め、異形部品の挿入といった用途が有望だ。例えば、EMS工場で異形部品を扱う工程はまだほとんど自動化されておらず、マーケットは非常に大きいとみている」
―ロボット事業全体でブランド力の強化を目標に掲げています。
「これまでロボット事業は、特定の有力なお客さまのおかげで発展してきた。半面、一般に当社のロボットが浸透しているとはいえないのが現状だ。今後は展示会などで積極的にPRすると同時に、ショールームの拡充も検討していく」
―16年度の販売見通しはどうですか。
「中国市場は依然活発に動いており、自動車産業向けを中心に欧米も堅調だ。また昨年中国で始めたラインビルディング事業が今年度から売り上げに寄与するなど、好材料は多い。為替変動によるマイナス影響はあるが、台数ベースでは前年度実績から20%程度、売り上げは10%近く伸ばしたい」
【記者の目・油圧技術連携、独自製品に注目】
ロボット事業の15年度の売上高は前年度比約10%増の600億円程度。後半に為替変動の影響を受けたが、半導体向けロボットが過去最高実績を記録するなど台数は大幅に伸び、高い成長率を維持した。16年度は為替リスクを織り込みつつも、半導体が引き続き好調なこともあり、再び2ケタ成長を狙う。中期戦略では油圧機器事業との連携もテーマ。油圧技術を応用したロボットハンドなど独自製品をどれだけ生み出せるかが注目される。
(聞き手=藤崎竜介)
日刊工業新聞2016年6月22日/24日