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日立が京大とAIで研究連携。生物進化の概念に取り込む

相次ぎ大学と共同ラボ。他の日本企業の研究開発にインパクトを与えるか
日立が京大とAIで研究連携。生物進化の概念に取り込む

握手する山極京大総長㊧と、東原日立社長

 日立製作所が大学との共同ラボを相次ぎ新設し、産学連携の強化に乗り出した。東京大学、北海道大学との共同ラボ設置に続き、23日には、京都大学と人工知能(AI)などの研究を主軸とする「日立京大ラボ」を開設したと発表した。同日会見した東原敏昭社長兼最高経営責任者(CEO)は「(京大とは)原点回帰し、基礎研究に力を入れる」と強調。従来の研究テーマごとの連携ではなく、組織同士の包括的な連携により、2050年に向けた社会課題を産学が知恵を絞って洗い出す。

 京大とは新たな包括連携によって、未来の社会課題をビジョンとして明確にし、その上で課題の解決に向けたテーマを模索する。京大の吉田キャンパス(京都市左京区)にラボを設置し、日立の研究者8人が常駐する。6月から19年3月までの約3年間を一区切りとし、具体的なテーマに落とし込む。

 「ヒトと文化の理解に基づく基礎と学理の探究」をテーマに掲げ、基礎研究を重視する京大の複数の学問領域の知見を基に、文理融合で連携研究に取り組む。特にAIについて、同席した山極壽一京大総長は「数理や物理に加え、生命科学や医学、人文科学など、文明の歴史の上に立った情報処理技術を作っていく」と語った。

 東原社長の言う「原点」とは人間の生物としてのあり方で、「生物の進化の概念をAIの開発に取り込む」(東原社長)狙い。例えば、魚の協調行動やゴリラの自律分業など、生態の群れに学び、環境に合わせて自律的に動くAIの実現などを構想する。

 また、日立が持つホログラフィー電子顕微鏡を駆使した計測技術の研究にも着手。新しい超合金の開発や、低消費電力メモリーとして期待される微小磁気渦(スキルミオン)物理の解明を目指す。

 東大とは人や機械を越える生命知能の研究、北大とは数学モデルを使ったコンピューティング技術の開発を進めるなど、それぞれの大学の特色を生かした内容で連携する。従来の産学連携から「産学協創」に向けてかじを切る。
日刊工業新聞2016年6月24日
永里善彦
永里善彦 Nagasato Yoshihiko
「第4次産業革命」に代表されるグローバルなトレンドのもと、日本企業は、既存の事業領域を超えた新たな領域、所謂「革新領域」における競争力の強化が急務となっている。そのためには基礎・応用および人文系・理工系の幅広いリソースを持つ大学と共同研究を加速する必要がある。「文理融合的な知見の活用」、「IoT・AIなどの最先端技術の開発」、「学際的な知見をもつ人材の活用」などが新たな事業を創生しよう。将来の社会課題の解決に向けた研究開発を進める日立にとって、今回の京大との共同研究は、例えば魚群が協調して行動する仕組みを解明・応用することにより、自動運転時代の渋滞緩和に寄与し省エネ社会のインフラ整備に貢献することになる。日立による京大、東大、北大との組織同士の包括的な連携は、他の日本企業の研究開発の在り方にインパクトを与えよう。

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