三菱重工と日立、火力合弁でぎくしゃくも最新鋭のガスタービンは好調
J形45基を受注。GEやシーメンスと激突
三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の最新鋭ガスタービン「J形ガスタービン」商用機の運転時間が、累計25万時間に到達した。同出力帯のガスタービンでは世界最長。現在稼働中のJ形ガスタービンは20基で、発電容量は約2100万キロワットとなる。累計発電量は、国内全世帯数の約半数にあたる2500万世帯の年間電力消費量を超える1090億キロワット時に達した。
J形ガスタービンは、高い効率と環境負荷低減を両立する世界最先端の性能を持つ。先進遮熱コーティングや高効率フィルム冷却などの先進技術を導入、前例のなかった1600度Cのタービン入口温度を達成した。
コンバインドサイクル発電方式の発電効率として、62%近くの高効率を実現。従来型石炭焚(だ)き火力発電と比べ、二酸化炭素(CO2)排出量を約50%低減できる。
MHPSは全世界で累計45基のJ形ガスタービンを受注。そのうちアジア向けは韓国の17基を含め33基、北米向けには12基の納入を予定する。
三菱重工業が南アフリカ共和国での石炭火力発電所向けボイラ建設工事を巡り、日立製作所に約3800億円の支払いを請求した。両社の火力発電事業統合会社である三菱日立パワーシステムズ(MHPS)設立以前に、日立から引き継いだ全12基の大型プロジェクト。運転開始が大きく遅れ、MHPS設立当初から赤字が確定的となっていた。MHPSは製造業を代表する事業再編の好例。親会社2社の不協和音が経営に悪影響を及ぼしかねない。
舞台となったプロジェクトは、日立が子会社を通じて2007、08年と連続して南アの電力会社エスコムから受注した発電所2カ所向けボイラ設備全12基の設計、製造、据付、試運転。当時の発表によると受注総額は約385億南アランド。これに対し三菱重工の請求額は482億南アランド(円換算で約3800億円)にのぼる。
品質問題に起因する工程見直しや現地ストライキなど不運が重なり、約3年遅れで15年夏に初号機の商用運転開始にこぎ着けたが「MHPS最大の難工事」(関係筋)といわれ「三菱重工にとって客船よりも損失リスクが大きい」(同)と指摘する向きもある。
MHPSは執行役員2人を張り付かせるなど、工事の進捗(しんちょく)管理を徹底しているが、現時点で予見した損失調整額は「最小限」(宮永俊一三菱重工社長)であり、”雪だるま式“に損失が膨らむ恐れは否定できない。くすぶっていた火種が表面化したのはなぜか―。
三菱重工と日立はMHPS設立にあたり同プロジェクトの資産や負債、契約に基づく権利・義務をMHPSに継承。プロジェクト工程と収支見積の精緻化を行い、それに基づき最終譲渡価格を決定、暫定価格との差額を調整する旨を合意し、期限を16年1―3月期に置いていたという。
MHPS設立以前の損失については日立が責任を負う契約を締結したとしており、三菱重工サイドは算定された譲渡価格調整金などを日立または日立子会社から受領する権利を有している。調整期限切れを機に公表に踏み切ったという。
三菱重工は3月末に支払いを請求したが、日立は4月6日に「法的根拠に欠ける。請求には応じられない」と回答。協議を続けている。「蒸気タービンを担当している仏アルストムにも工事遅延の原因があるのでは」(関係筋)との指摘もあり、協議が短期決着する可能性は薄い。
「2年かけて結論が出ないのでは、株主への説明責任がある」(宮永社長)という三菱重工の主張は理解できるが、親会社同士の剣呑な雰囲気がMHPSに伝播すれば社内融和に支障が出るだろう。米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンスを抜き、火力発電設備で世界一になるというMHPSに立ち止まる余裕はない。
J形ガスタービンは、高い効率と環境負荷低減を両立する世界最先端の性能を持つ。先進遮熱コーティングや高効率フィルム冷却などの先進技術を導入、前例のなかった1600度Cのタービン入口温度を達成した。
コンバインドサイクル発電方式の発電効率として、62%近くの高効率を実現。従来型石炭焚(だ)き火力発電と比べ、二酸化炭素(CO2)排出量を約50%低減できる。
MHPSは全世界で累計45基のJ形ガスタービンを受注。そのうちアジア向けは韓国の17基を含め33基、北米向けには12基の納入を予定する。
世界一へ立ち止まる余裕はない
日刊工業新聞2016年5月12日
三菱重工業が南アフリカ共和国での石炭火力発電所向けボイラ建設工事を巡り、日立製作所に約3800億円の支払いを請求した。両社の火力発電事業統合会社である三菱日立パワーシステムズ(MHPS)設立以前に、日立から引き継いだ全12基の大型プロジェクト。運転開始が大きく遅れ、MHPS設立当初から赤字が確定的となっていた。MHPSは製造業を代表する事業再編の好例。親会社2社の不協和音が経営に悪影響を及ぼしかねない。
舞台となったプロジェクトは、日立が子会社を通じて2007、08年と連続して南アの電力会社エスコムから受注した発電所2カ所向けボイラ設備全12基の設計、製造、据付、試運転。当時の発表によると受注総額は約385億南アランド。これに対し三菱重工の請求額は482億南アランド(円換算で約3800億円)にのぼる。
品質問題に起因する工程見直しや現地ストライキなど不運が重なり、約3年遅れで15年夏に初号機の商用運転開始にこぎ着けたが「MHPS最大の難工事」(関係筋)といわれ「三菱重工にとって客船よりも損失リスクが大きい」(同)と指摘する向きもある。
MHPSは執行役員2人を張り付かせるなど、工事の進捗(しんちょく)管理を徹底しているが、現時点で予見した損失調整額は「最小限」(宮永俊一三菱重工社長)であり、”雪だるま式“に損失が膨らむ恐れは否定できない。くすぶっていた火種が表面化したのはなぜか―。
三菱重工と日立はMHPS設立にあたり同プロジェクトの資産や負債、契約に基づく権利・義務をMHPSに継承。プロジェクト工程と収支見積の精緻化を行い、それに基づき最終譲渡価格を決定、暫定価格との差額を調整する旨を合意し、期限を16年1―3月期に置いていたという。
MHPS設立以前の損失については日立が責任を負う契約を締結したとしており、三菱重工サイドは算定された譲渡価格調整金などを日立または日立子会社から受領する権利を有している。調整期限切れを機に公表に踏み切ったという。
三菱重工は3月末に支払いを請求したが、日立は4月6日に「法的根拠に欠ける。請求には応じられない」と回答。協議を続けている。「蒸気タービンを担当している仏アルストムにも工事遅延の原因があるのでは」(関係筋)との指摘もあり、協議が短期決着する可能性は薄い。
「2年かけて結論が出ないのでは、株主への説明責任がある」(宮永社長)という三菱重工の主張は理解できるが、親会社同士の剣呑な雰囲気がMHPSに伝播すれば社内融和に支障が出るだろう。米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンスを抜き、火力発電設備で世界一になるというMHPSに立ち止まる余裕はない。
日刊工業新聞2016年6月22日