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TDK、今期収益に懸念材料。HDDヘッドが大失速で成長の足かせに

村田に追いつくどころか・・
TDK、今期収益に懸念材料。HDDヘッドが大失速で成長の足かせに

写真はイメージ

 TDKの2017年3月期の収益構造に懸念材料が浮上している。受動部品と二次電池の両セグメントは好調を維持するものの、パソコン需要の急減に伴いHDD(ハードディスク駆動装置)ヘッドのセグメントは大幅に失速する見通しだ。15年3月期と16年3月期の主要セグメントの業績は堅調だったが、17年3月期は好調な業績の中に波乱要因を抱える展開になりそうだ。

 「減益要因のほとんどが(磁気応用製品セグメントの中心である)HDDヘッドが利益貢献しないことにある」。4月、上釜健宏社長は17年3月期見通しをこう説明し、HDDヘッドの先行きに警戒感を示した。

 17年3月期の売上高は前期比0・7%増と同水準にもかかわらず、営業利益は同20・8%減を見込む。16年3月期に約200億円計上したHDDヘッドの営業利益が、17年3月期予想では大部分が剥落(はくらく)するとされるためだ。そこで中国の生産拠点でリストラを実施するなど改革を実行。「ヘッドの拠点をどんどん電子部品の生産に振り向ける」(同社首脳)など対策を急いでいる。

 HDDヘッドの不調は、収益性を押し下げている。営業利益率は15年3月期に6・7%、16年3月期に8・1%と改善してきたが、17年3月期予想は6・4%と15年3月期並みに逆戻りする。中期経営計画の最終年度の18年3月期に10%以上を掲げているが、目標達成にはHDDヘッドのテコ入れが急務だ。

 一方、受動部品と二次電池の両セグメントは、これまでの取り組みが奏功して好調を続ける。いずれも16年3月期に売上高、営業利益で過去最高を記録し、17年3月期も増収増益を見込む。特に受動部品はスマートフォン販売数の増加傾向が鈍化するにもかかわらず、「まだ好調に推移する」(同)と自信を示し、事業基盤の強さを強調する。

 セグメントによって好・不調が際立つ収益構造は、成長の足かせになる恐れがある。最大のライバルである村田製作所の営業利益率は16年3月期に22・7%を計上するなど、高収益のビジネスモデルを確立している。TDKもHDDヘッドの改革を進め、強みを訴求するモデルに転換できれば、より利益を創出できるはずだ。

 特にHDDヘッドは改革のやり方次第で、高い付加価値を生む可能性を秘める。中期的な市場見通しは悪くなく、技術開発面でも車載市場で競争力ある製品を生み出す源泉になる。他の事業と組み合わせれば、新たなビジネスも創出できる。

 例えば、買収したスイス・ミクロナスや、提携する米クアルコムとのシナジーなどがそれだ。TDKはこれらのシナジーや商材の広さを生かせば利幅の大きい製品・サービスを生み出すことができ、村田とは異なる道筋で収益力を高めることも可能になる。
(文=米今真一郎)
日刊工業新聞2016年6月21日
尾本憲由
尾本憲由 Omoto Noriyoshi 大阪支社編集局経済部
SSDなど半導体メディアの大容量化と低価格化が同時進行し、HDDがどんどん隅に追いやられているように見える。しかしHDD市場はただ縮小しているだけではない。データセンターなどインターネットのインフラとしてはまだまだ主役。それらの市場では需要も盛り上がっているし、開発競争も続いている。もちろんヘッドを内製するHDDメーカーも含め、熾烈な競争が待ち受けるが、残存者利益を得るところまで、なんとか勝ち残ってもらいたい。

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