インダストリー4.0時代、日本の産業用ロボットは追い風にできるか
FAの“手足”であり“頭脳”ではない。賢さの価値を何だ!?
政府が成長戦略の目玉に位置づける第4次産業革命。その重要な担い手がロボットだ。中でも産業用ロボットは、IoT(モノのインターネット)による製造革新、中小企業の現場力底上げに不可欠として注目されている。海外でも中国を中心に、ロボット業界は依然として好調。為替変動、競争激化など懸念材料はあるものの、国内外での需要増や国の支援を追い風に、ロボット大手各社はさらなる高みを目指す。
「景気の波にあまり左右されずに、需要の拡大が続いている」(稲葉善治日本ロボット工業会会長=ファナック社長)。日本ロボット工業会は5月、2016年の総出荷額目標を、過去最高値の7500億円(前年実績比9・7%増)に上方修正した。稲葉会長は同工業会の総会で「ロボット革命実現にまい進したい」と力強く語った。
各社が有望市場として注目するのが、ロボットの販売数が急増している中国だ。15年に現地経済の減速が表面化し、一時は「ロボットの需要も停滞するのでは」と危ぶむ声が業界周辺で聞かれた。一部メーカーで15年末に受注の鈍化がみられたが今は「2月の春節(旧正月)以降回復し、良い状態に戻った」(関係者)とおおむね順調だ。
中国では人件費高騰や労働力不足により、工場自動化が進む。産業機械全般への投資は停滞しているが、ロボットへの投資意欲は今も旺盛だ。また、製造業での労働力不足は、欧米など先進国でも問題となっている。中国ほどの勢いはないが「欧米向けも堅調に伸びている」(稲葉会長)という。
懸念材料は為替変動の影響だ。安川電機は16年度に販売台数を前年度比約5%増とする計画だが、円高の影響で金額はほぼ横ばいとなる見通し。川崎重工業も「台数は20%増」(橋本康彦常務執行役員)と強気だが、金額は10%増程度に落ち着く可能性がある。
中国企業も台頭している。市場拡大をにらみ、中国最大の家電メーカーである美的集団が独クカへの出資比率引き上げを表明するなどロボットメーカー以外も食指を動かす。ただ「今は市場の成長速度がとにかく早い」(稲葉会長)と競争激化によるマイナス影響は限定的との見方も多い。
日本や中国の政府がロボットを成長戦略に組み込み、欧米ではIoTやロボットによる産業革命が構想される。業界に追い風が吹く中、いかに強固なビジネスモデルを築き永続的発展につなげるかが各社の課題だ。
拡大し続ける産業用ロボット市場。ただ、競争軸は着実に変わりつつある。IoT(モノのインターネット)、人工知能(AI)など、新たな技術をいかに取り込み成長につなげられるか―。その一つの手段がIT企業との連携だ。
4月、ロボットで世界トップ級のシェアを誇るファナックが、新たなIoT構想を打ち出した。プリファード・ネットワークス(PFN、東京都文京区)、米シスコシステムズ、米ロックウェル・オートメーションと組み、IoTでロボットなど工場自動化(FA)機器をさらに進化させる計画だ。PFNのAI技術やシスコの通信技術を用い、プログラミングの簡略化、部品故障の正確な予知などを可能にする。
安川電機や川崎重工業など、他メーカーもIoTによるロボットの進化に取り組んでいる。AIの領域で日本IBMと協業する安川電機は「IoTでリアルタイムに情報が入るようになれば、ロボットはより正確に作業できるようになる」(小川昌寛執行役員)と予測。川崎重工業は「ロボットコントローラーに周辺設備の稼働データも集め“生産ライン全体のセンサー”として機能する」(橋本康彦常務執行役員)姿を目指す。
産業用の多関節ロボットはある程度形態が確立され、ユーザーも固定化していた。そしてロボットそのものの動作精度や速度は、限りなく高いレベルに到達しつつある。「これ以上、産ロボは進化しないのでは」と思われていた中で浮上したのが、IoT、そしてAIとの融合だ。
こうしたロボットの“情報化”には、ユーザー層の変化が大きく影響している。これまでロボットの導入先は自動車や電機の業界に偏っていたが、近年、機械や日用品などその他の分野にも広がりつつある。
しかし新たなユーザーはロボットに慣れておらず、プログラミングや故障対応などが導入障壁になりやすい。IoTなどを活用すればロボットは“より使いやすく”なり、ユーザー層の拡大を後押しする。ロボットとITとの融合は、新たな競争力を生み出すといえそうだ。
各社の取り組みはまだ始まったばかりで、今後の展開については未知数な部分が多い。とはいえ、国内外で構想される第4次産業革命には、進化した“より賢いロボット”が不可欠だ。革命の実現に向け、各社の力量が試される。
(文=藤崎竜介)
今年の総出荷額は過去最高か
「景気の波にあまり左右されずに、需要の拡大が続いている」(稲葉善治日本ロボット工業会会長=ファナック社長)。日本ロボット工業会は5月、2016年の総出荷額目標を、過去最高値の7500億円(前年実績比9・7%増)に上方修正した。稲葉会長は同工業会の総会で「ロボット革命実現にまい進したい」と力強く語った。
各社が有望市場として注目するのが、ロボットの販売数が急増している中国だ。15年に現地経済の減速が表面化し、一時は「ロボットの需要も停滞するのでは」と危ぶむ声が業界周辺で聞かれた。一部メーカーで15年末に受注の鈍化がみられたが今は「2月の春節(旧正月)以降回復し、良い状態に戻った」(関係者)とおおむね順調だ。
中国では人件費高騰や労働力不足により、工場自動化が進む。産業機械全般への投資は停滞しているが、ロボットへの投資意欲は今も旺盛だ。また、製造業での労働力不足は、欧米など先進国でも問題となっている。中国ほどの勢いはないが「欧米向けも堅調に伸びている」(稲葉会長)という。
懸念は為替
懸念材料は為替変動の影響だ。安川電機は16年度に販売台数を前年度比約5%増とする計画だが、円高の影響で金額はほぼ横ばいとなる見通し。川崎重工業も「台数は20%増」(橋本康彦常務執行役員)と強気だが、金額は10%増程度に落ち着く可能性がある。
中国企業も台頭している。市場拡大をにらみ、中国最大の家電メーカーである美的集団が独クカへの出資比率引き上げを表明するなどロボットメーカー以外も食指を動かす。ただ「今は市場の成長速度がとにかく早い」(稲葉会長)と競争激化によるマイナス影響は限定的との見方も多い。
日本や中国の政府がロボットを成長戦略に組み込み、欧米ではIoTやロボットによる産業革命が構想される。業界に追い風が吹く中、いかに強固なビジネスモデルを築き永続的発展につなげるかが各社の課題だ。
IoT、AIで動き急
拡大し続ける産業用ロボット市場。ただ、競争軸は着実に変わりつつある。IoT(モノのインターネット)、人工知能(AI)など、新たな技術をいかに取り込み成長につなげられるか―。その一つの手段がIT企業との連携だ。
4月、ロボットで世界トップ級のシェアを誇るファナックが、新たなIoT構想を打ち出した。プリファード・ネットワークス(PFN、東京都文京区)、米シスコシステムズ、米ロックウェル・オートメーションと組み、IoTでロボットなど工場自動化(FA)機器をさらに進化させる計画だ。PFNのAI技術やシスコの通信技術を用い、プログラミングの簡略化、部品故障の正確な予知などを可能にする。
安川電機や川崎重工業など、他メーカーもIoTによるロボットの進化に取り組んでいる。AIの領域で日本IBMと協業する安川電機は「IoTでリアルタイムに情報が入るようになれば、ロボットはより正確に作業できるようになる」(小川昌寛執行役員)と予測。川崎重工業は「ロボットコントローラーに周辺設備の稼働データも集め“生産ライン全体のセンサー”として機能する」(橋本康彦常務執行役員)姿を目指す。
産業用の多関節ロボットはある程度形態が確立され、ユーザーも固定化していた。そしてロボットそのものの動作精度や速度は、限りなく高いレベルに到達しつつある。「これ以上、産ロボは進化しないのでは」と思われていた中で浮上したのが、IoT、そしてAIとの融合だ。
ユーザー層が大きく変化
こうしたロボットの“情報化”には、ユーザー層の変化が大きく影響している。これまでロボットの導入先は自動車や電機の業界に偏っていたが、近年、機械や日用品などその他の分野にも広がりつつある。
しかし新たなユーザーはロボットに慣れておらず、プログラミングや故障対応などが導入障壁になりやすい。IoTなどを活用すればロボットは“より使いやすく”なり、ユーザー層の拡大を後押しする。ロボットとITとの融合は、新たな競争力を生み出すといえそうだ。
各社の取り組みはまだ始まったばかりで、今後の展開については未知数な部分が多い。とはいえ、国内外で構想される第4次産業革命には、進化した“より賢いロボット”が不可欠だ。革命の実現に向け、各社の力量が試される。
(文=藤崎竜介)
日刊工業新聞2016年6月16日/17日