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マイナス金利の“深化”、日銀の金融政策に出口はあるのか

文= 大井幸子(国際金融アナリスト兼SAIL社長)
マイナス金利の“深化”、日銀の金融政策に出口はあるのか

日銀は16日の金融政策決定会合で現状の金融政策の維持を決めた(黒田総裁)

 15日、イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長は利上げを先送りし、米国経済の低調な成長見通しに言及し、23日に実施される欧州連合(EU)離脱の可否を問う国民投票を考慮に入れたと述べた。さらに今後の利上げについても年に1回ほどの穏やかなペースになると予想される。

 英国国民投票で離脱派が勝利した場合、短期的には市場の混乱が予想され市場関係者はリスクオフで神経質な模様眺めである。投資マネーは安全資産である米国債、ドイツ国債、円に逃避し特に独国債10年物はマイナス0・035%と、デフレ懸念すら出て来ている。

 24日午後には投票結果が判明すると言われ、仮にEU残留派が勝利すれば、27日の週明け、リスクオフからオンへとポジションの転換が市場のボラティリティを急激に高めるだろう。投資マネーは、債券から株式へとリスクの高い資産へ動くだろう。また、EU離脱となった場合、離脱後の交渉は2020年代後半まで続くとみられる。EU脱退協定の締結、EUとの新協定の締結、他国とのFTA交渉といった長い手続きがある。その間、2017年には仏大統領選挙と独議会選挙があり、欧州の中核を成す二国で政権交代の可能性もある。

 英国国内には欧州議会の官僚主義に対する反感が根強く、自律的な国家運営を望む声が高まっている。英国が正式に離脱すれば、中長期的にEU加盟国の結束にヒビが入る可能性が高まるだろう。

「アベノミクス」の正当性を強調も、米国には警戒感


 こうした国際金融市場の影響下、日本では円高に伴い株安が進行しつつある。消費税増税が先送りになったことで、日銀のマイナス金利を深化させる必然性が薄まったように感じるが、7月の参院選に向けて政府は安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の正当性を強調するために、日銀のマイナス金利の深化と財務省の為替介入による円安誘導を実施する可能性はある。対米で貿易黒字国の日本によるこうした刺激策は、米国財務省がモニタリングリストに載せて警戒している。

 日本の国債市場でも異変が感じられる。今月8日に三菱東京UFJ銀行が国債市場特別参加者(プライマリーディーラー)の資格を返上すると発表し債券市場関係者の間に緊張が走った。こうしたディーラーは財務省から国債を仕入れて日銀に運ぶ「国債宅急便」と呼ばれ、市場に重要な役割を果たしている。

 今のところ他行や証券会社が「国債宅急便」から離脱する動きはなく平静が保たれている。だが関係者の一部は日銀の出口戦略に対する不信感の表れと見ている。仮に国内で国債が消化できなくなると国債が投げ売られ、国債価格が暴落し国内の市場金利が上昇し日銀のマイナス金利は完全に裏目に出てしまう。
日刊工業新聞2016年6月17日 
安東泰志
安東泰志 Ando Yasushi ニューホライズンキャピタル 会長
大井幸子さんらしく、よく纏まっているが、日銀の金融政策の最大のリスクは出口戦略が非現実的になりつつあること、そして、政府が日銀による金利抑圧を利用して際限ない財政拡張に動くヘリコプターマネーの可能性だと私は考えている。

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