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出井氏はソニー創業者・井深大からどんなインスピレーションを感じ取ったのか

「リジェネレーション」、「不連続の時代」というメッセージに込められた記憶
出井氏はソニー創業者・井深大からどんなインスピレーションを感じ取ったのか

井深氏(左)と出井氏(右下)

 以前、ニュースイッチで取り上げとても反響のあった「ソニー創業者・井深大が2400人の幹部に発したパラダイムシフトという遺言」の記事。時は1992年1月24日、場所は新高輪プリンスホテル。当時、83歳の井深氏は名誉会長に退き体調も万全ではなかった。毎年一回、国内外の部長以上が一同に会する「マネジメント会同」では、時宣を得たテーマについて発表や議論が行われる。

 井深氏は出席予定ではなかったが、テーマが「パラダイム」ということで居たたまれなくなってやってきた。井深氏は97年に亡くなるが、大勢のソニー社員の前で話したのはこれが事実上最後である。すでにソフトウエアの時代や科学の方向性を示唆した先見性に驚嘆せざるを得ない。

 ソニーの広報部によると、当時、会場にいた人物はもう今のソニー社員にはいないだろう、と。実はニュースイッチのファシリテーターで元ソニー役員の原直史氏は、事務局としてその場所にいた。原さんのエピソードを紹介する。

「ガツンと頭を殴られたような思い」(原直史)


 最近の記事ではないが、元ソニー社員として一言、申し添えたい。この記事にあるマネジメント会同は、原則部長以上の会議なので、当時の私には出席する資格はなかったのだが、事務局の一人として、その場で井深さんの話を聞くことができた。

 今でも、鮮明に覚えている。会議が終盤にかかり、発表者も参加者も、パラダイムシフトという大きなテーマについて議論をしたという満足感とある種の高揚感が漂っていたところに、この言葉だった。その場にいた全員が、ガツンと頭を殴られたような思いだったに違いない。

 後に社長になる出井さんとこの会議の後に話をしたのだが、井深さんの言葉に強く感じ入っておられた。ご本人に確認はしていないが、出井さんが社長になられたとき、リジェネレーションとか、不連続の時代などのメッセージを出されたのは、この井深さんの言葉に対する記憶と無縁ではなかったような気がする。

 井深さんは、多弁な方ではなかったが、記憶に残る言葉をいくつも残された。それらは、私の中にも、まだ存在している。

井深氏からの遺言(全文)


 今日は身体の調子もあまり良くないので、出てくるつもりはなかったのですけど、「パラダイム」という言葉に惹かれて出てきたわけであります。

 パラダイムというのは非常にいろいろな意味があるんですけど、今日、みなさんの話を聞いてると、これはニューパラダイムの話じゃないんですよね。

「デジタルだ、アナログだ」なんてのは技術革新にも入らない


 それでパラダイムっていうのは、どういうことかって言いますと、コペルニクスが地動説を言い出したわけでありますが、(それまでは)誰もが地球を中心にして太陽も月も回るんだ、ということを誰一人として疑うことはなかった。

 今でも我々は東から太陽が出て西へ沈むという事を平気で口にするくらい、天動説のパラダイムは行き渡ってまだ尾を引いている。先ほど社長(当時は大賀典雄氏)が言ったけれども、大衆の人全部が全然信じて疑わないこと、これがパラダイムなんですね。

 しかしパラダイムというのは決して真理でもなければ、永久にそれが続くわけではない。そういう問題がパラダイムなんで、我々の社会でパラダイムということを考えてみると、ひょっとしたら半導体を我々が使い出したこと、これは一つのパラダイムシフトになっているかもしれない。

 けれども、先ほどの言葉にもあったけど、「デジタルだ、アナログだ」なんてのは、ほんと道具だてにしか過ぎない。これは技術革新にも入るか入らないくらい。そういうと今日のスピーカーには大変失礼な言い方だけど、道具だてなんですよね。

デカルト、ニュートンにまんまと騙されている


 これをもってニューパラダイムというのは、非常におこがましいだろうと私はそう考える。少なくとも、もちろんみなさん方が明日のこと、今日のことを考えて、こういう事(マネジメント会同)を一生懸命やって解決される努力も立派なものがあるし、先ほどから聞いていて大変な努力が効果を奏していることもよく分かるんです。

 けれども、やっぱりニューパラダイムを考える人というものが、少なくとも21世紀に対しての備えとしてソニーに必要なわけなんで、そういうパラダイムの大ディスカッションをやるような機会というものをぜひ作ってもらいたい。

 今日のことばっかり考えていても、予言書によれば今世紀の終わりには地球が滅びるというのもあるんで、慌てて目の前の事を片付けておかなければならんこともこれは確かなんですけど(会場笑い)、もしも生き残った時に、21世紀のソニーはどうするかっていうことの備えもしてもらいたいというのが、私の遺言でございますので(会場笑い)。

 (ソニーには)一つパラダイムがある。「ソニーの製品は間違いねぇーんだ、高くてもしょーがねぇー買うんだ」と。これはみなさん方の努力で世界中にまき散らした一つのパラダイムと言っても差し支えないと思う。その次のパラダイムをひとつよろしくお願いします。おしまい。

 司会 どうもありがとうございました(会場拍手)
※少し時間が空いて井深氏再登場

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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
このマネジメント会同の井深さんが発言している映像がソニーに残っている。時間にして約9分。自分は見せて頂く機会があり、その映像だけでも心が震えた。現場にいた若き原さん、そして出井さんはもっともっと高揚したはずだ。いつかニュースイッチの読者のみなさんとこの映像を見る会を企画できたらいいな、とも考えている。

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