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SIMロック解除で“得する人、損する人”。 スマホ流動化に虎視眈々

携帯会社と顧客「契約のあり方」見直すきっかけに
SIMロック解除で“得する人、損する人”。 スマホ流動化に虎視眈々

SIMロックの解除が義務化されて、これから各社のSIMを自由に使えるようになる

 スマートフォンといった携帯電話などで、契約者の情報を記録する「SIMカード」。総務省は契約している通信会社以外のSIMカードを携帯電話に差し込んでも使えないように制限する「SIMロック」の解除を義務化した。5月以降に発売される端末に適用し、消費者は各社のSIMを利用しスマホの料金低減などを見込める。スマホ市場で顧客の流動性が向上し、活性化に結びつくにはある程度の時間がかかると思われるが、格安スマホの拡大を後押しし、携帯会社と消費者との契約形態を見直すための呼び水になる可能性がある。
 
 【寡占構造に変化】
 SIMは通信サービスの契約者を特定する情報が記録されている。これまではNTTドコモなどの携帯各社が、自社のSIMを使う場合にのみ端末が動作するように制限するSIMロックを設定していた。

 総務省が2010年6月に策定した「SIMロック解除に関するガイドライン」により、これまでもロック設定は一定の条件を満たせば解除できた。ただし「義務」ではなく、携帯各社の主体的な取り組みに委ねられていた。そのため消費者の認識は高まらないままで、各社は引き続きSIMロックにより契約者を囲い込んできた。

 ただ、海外では通信事業者と携帯端末の組み合わせを制限しない「SIMフリー」のサービスが少なくない。また、為替の円安や2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックによる訪日外国人旅行者(インバウンド)の増加なども背景に、多様で柔軟な通信サービスが求められている面も総務省の規制改革を後押しする。

 従来、各社とも携帯基地局の建設などに、年間4000億―7000億円という巨額の設備資金を投じてきた。この投資を回収するため、通信料金は月額6500円程度と横並びになっている。総務省はこうした状況下で解除を義務化する。従来のビジネスモデルだった端末とサービスの一体提供から、消費者が端末とサービスを自由に選べるようになる。大手携帯のキャリア3社が寡占化してきた業界構造が変化する可能性もあり、各社は差別化の対応に迫られる。

 NTTドコモとKDDIは5月以降に発売する機種について、購入から約6カ月経過すればロックの解除を申し込めるようにする。「端末の不正利用を防ぐ」(KDDI)ために、解除しない期間を設けた。ドコモはインターネットの受け付けは無料、電話と店頭は手数料が3000円(消費税抜き)かかる。一部の機種は対象外となる。

 KDDIは今後発売するauのスマホやタブレット端末(携帯型情報端末)などに原則的にロック解除の機能を搭載する。ネット受け付けは無料で解除するが、店舗で解除するには手数料が3000円(同)かかる。解除の受け付けを済ませた端末に、他社のSIMを挿入し、無線LAN規格「Wi―Fi(ワイファイ)」の通信環境に接続して設定ファイルを更新すると解除できる。また、スマホが実装している周波数帯の一覧を自社のウェブサイトに公開し、他社のSIMを使う場合に確認できるようにしている。ソフトバンクも今後、総務省の方針に沿った対応を改めて周知する予定だ。
 
 【利用者が流動化、デメリットも】
 解除によって端末に各社のSIMを差し替えて使えるようになるが、メリットが多いとは必ずしも言い切れない。スマホの契約者のほとんどが通信会社と2年契約を結んでいるが、途中でロックを解除しSIMを変えた場合には解約料約1万円と、端末代金の残額を支払わなければならない。そのため契約期間中に通信会社を変えない消費者が多いとの見方もある。

 また各社が提供する独自サービスを受けられなくなる可能性がある。さらに他社のSIMを利用する際に、端末の動作を保証しておらず、通信速度の低下など正常に動かないことも考えられる。各社にはSIMロック解除により、こうした変化が起こることを契約者に分かりやすく丁寧に説明することが求められる。

 解除の義務化で各社間で利用者の流動性が高まることが予想される一方で、顧客のつなぎ留めやスマホ買い替えを支援する動きが広がりそうだ。KDDIは米アップルのスマホ「iPhone(アイフォーン)6」など5機種を2年間の割賦払い契約で購入した顧客を対象に、1年半以上利用すれば機種変更の際に、使っている端末の分割支払金の残額を無料にするプログラムを開始。月額300円(同)で加入でき、最新機種の購入意欲を喚起する。買い替えの負担軽減とともに、長期利用を狙った一手だ。顧客をめぐる各社の駆け引きが過熱しそうだ。
 
 【“格安スマホ”に追い風】
 昨春から一気に形成されてきた格安スマホ市場にとっても解除の義務化は追い風だ。スマホに詳しくない消費者でも「何かしら安くなる」との認識が広まるはずで、回線を通信会社から借りる仮想移動体サービス事業者(MVNO)は自社の格安SIMの利用につなげていく戦略だ。

 ビッグローブ(東京都品川区)は、自社のMVNOサービスの窓口として活用するアイ・ティー・エックスの「スマホの窓口 スマート・スマート 浦和コルソ店」(さいたま市浦和区)でロック解除の説明や自社サービスを訴求する。MVNOのサービスは携帯キャリアに比べて低価格が大きな魅力だ。携帯キャリアの月額利用料金は、音声通話とデータ通信料金込みで約6500円(同)。これに対しビッグローブは同6ギガバイトで2405円(同)とかなり安くなる。この点を消費者にアピールするなどして顧客を獲得していく。

 ヨドバシカメラもSIMの申し込みなどを受け付ける専用カウンターを東京・秋葉原の店舗に5月中旬に開設する。複数の通信会社のSIMに関連した設定・開通作業や、利便性の高いアプリケーション(応用ソフト)の提案、アフターサービスを手がける。SIMを自由に差し替えるSIMフリースマホのニーズに対応する。

 イオンはコールセンターを設けて、端末の初期設定やアプリなどの操作方法などの問い合わせを受け付ける。ニーズが高いスマホの情報セキュリティー対策や故障時の保証サービスも提供している。各地に店舗を展開していることで、もともと40―50代を中心に消費者との接点は強い。スマホを初めて使う顧客対応の体制を整えることで、携帯各社と遜色ない競争力を得て、格安スマホ市場の開拓を狙う。

 一方で、ロック解除により顧客の流入などの効果を得られるのには時間がかかるとの見方が大勢だ。「ただちに市場は変わらないが、格安スマホへの認知度は高まるので『楽天モバイル』を訴求していく」(楽天)、「義務化から1年半から2年ぐらいで効果が出てくる」(ユーネクスト)といった声が聞こえてくる。格安スマホ各社には、携帯各社と顧客獲得で真っ向勝負を挑めるように、価格面だけではなく、端末の拡充やサービス、顧客対応力の強化などビジネスモデルの確立が必要だ。

 またロック解除の義務化により予想されているのが、中古端末の流通の活性化だ。そこでヤフーは自社のインターネットオークションサイトや、電子商取引(EC)サイトで購入した中古スマホなどの故障や紛失に対し、補償金を支払うサービスを提供している。月額500円(同)の利用料を払えば、自然故障の場合、2万円を上限に修理代金が最大100%補償される。紛失や盗難時にも1万円を上限に、新端末代金の50%が支払われる。事業者による中古端末販売に加えて、個人間取引が増えることが見込まれる中で、消費者の故障への懸念を解消する。
 
 【契約のあり方、夏にも見直しも必要最小限に】
 総務省は14年12月、SIMロック解除に関するガイドラインを改正。携帯各社は「原則として自ら販売したすべての端末」についてロック解除に応じなければならないとした。ネットや電話によって手続きを行えるようにして、無料でロック解除を行わなければならない。ただ「端末の割賦を支払わない」「端末の入手だけを目的とした役務契約」といった不適切な行為を防ぐためにロック解除に応じないことなど、必要最小限の措置を講じることを認めている。

 これに先立ち、総務省の有識者会議でロック解除を議論。現在のスマホ市場がキャリア3社で寡占化している状態を問題視し、競争政策の見直しを進めてきた。競争を促進させるための施策の一つが今回のロック解除の義務化だ。

 併せて携帯会社と消費者との契約のあり方を議論する機運も高まっている。総務省は2年契約の途中で解約した際の解約料の支払いや、契約期間が終了しても契約を自動更新する仕組みの見直しに向けて作業部会を立ち上げる方針。早ければ夏にも結論を出す見込みだ。

 スマホ市場で顧客の流動性を高めるには、ロック解除だけでは不十分で、契約形態を変える必要がある。インバウンドの増加などで国内が“内なるグローバル市場”に変化するといった、ビジネスチャンスの側面も少なくない。消費者の囲い込みの要因だった“二つの縛り”を解くことで、スマホ市場は“真の活性化”に向けたドアを開くことになる。
日刊工業新聞2015年05月04日 電機・電子部品・情報・通信面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
最後くだりのスマホ市場の真の活性化って何?と思うけど、こういうところでキャリアの度量とか思いっきりとか、先をみた戦略性が出てくるんでしょうね。

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