ドローンは米国だって規制が厳しい。禁止でなく適切なルールを!坂村健の「卓見異見」
未来を見据えて布石を打て。NASAは一般航空機との統合管制システムを開発へ
飛行ドローン(飛行ロボット)が首相官邸の屋上に落ちていた、というニュースが話題になっている。普段は「規制緩和」を言うマスコミが、こういう事件が起こると早速「規制強化」を言い立てている。確かに、ことドローンに関しては「規制大国」日本には珍しくほとんど規制がない状況だ。航空法ではドローンは模型飛行機の分類で、空港周辺などを除けば高度250メートルまでなら届け出なしに飛ばせるし、免許等の制限もない。
マスコミが対比するのはここでも米国。ただし「規制先進国」としてだ。米国では軍用ドローンはいざしらず、民間ドローンについては非常に規制が厳しい。肝心の商業利用がそもそも原則禁止。利用を急ぐ産業界は米連邦航空局に申請し、その都度例外措置を取得しているが、それでも高度122メートル以上飛行禁止、夜間もカメラ操縦も当然自律飛行も禁止、地上の操縦者から見える範囲でしか飛ばせない。その操縦者も航空機操縦免許が必要。米国の産業界はこぞってこの「規制」の緩和を求めている。
「テロ対策先進国、ドローンにも素早く対策」と思うが、実はこれはテロやドローンが話題になるよりはるか以前からの規制。航空交通過密の米国の事情によるものだ。小型機が多用され、そこら中に空港がある米国では、航空管制外のラジコン航空機が紛れ込めば事故につながるからだ。実際米国は、この古くなった規制見直しを検討しているし、同時に一般航空機と無人機を統合管制するシステム開発を米航空宇宙局(NASA)で開始するなど、未来を見据えて布石を打っている。
【公共の利益とバランス】
では、テロ対策としての規制はと考えると、冷静に考えればわかるが、法律を守らないのがテロリスト。「首相官邸上空ドローン飛行禁止」と決めるだけで済むならこんな楽な話はない。また、実際問題として土地の空中権があるので、他人の頭上で飛ばすには今でも地権者の許可が必要だ。首相官邸の屋上を報道ヘリが撮影しているように商業用の有人航空機が他人の家の上も飛べるのは、操縦免許、安全基準、機種認定、点検規則、飛行申請、保険などの制度によりリスク管理され、公共の利益とのバランスで許されているからにすぎない。
今でもドローンの実験ができる場所がなくて、研究者が困っているぐらいで、どこでも勝手に飛ばせるなどという話はない。むしろ、日本のドローン開発者が希望しているのは、有人航空機のような皆が納得する規制を早く制定して、社会的に商用ドローンの立ち位置を定めてほしいということだ。
その意味では「規制を急げ」というマスコミの論調は追い風だが、関係者が求めているのは「適切な規制」であって、拙速に決めた「使わせないための規制」ではない。むしろ恐怖で社会判断を歪(ゆが)めるというテロの定義からすれば、それこそまさに思う壺(つぼ)だろう。
【将来につながる規制を】
少し前に、自動車爆弾テロが多発し問題になったが、これが今下火なのは「規制」が整備されたからではない。施設への進入路の設計や障害物の配備など、重要施設での自動車爆弾対策が進んだからだ。テロ先進国の米国は、首相官邸と違い、規制に頼るのでもなくホワイトハウスの屋上に狙撃銃を持つ特別要員を常時配置している。対空砲が配備されているという噂(うわさ)もある。
実際問題として、ドローンは見知らぬ脅威だから過剰に恐れられているだけ。軍用ではなく民生用のドローンは自動車爆弾や航空機の自爆テロに比べればはるかに排除しやすい。軽く華奢(きゃしゃ)で、かすみ網でも止められるし、大出力電波でも動作不能にできる。パニックになる必要はない。規制をするなら、免許と併せ自動車のように、電波や光を使って誰何(すいか)に答えるトランスポンダー式の電子的なナンバープレートを義務付け、不審ドローンを簡単に識別できる次世代航空管制システムといった将来につながる方向で進むべきだろう。
海外では倒れた人のもとにすばやく飛ぶ自動体外式除細動器(AED)ドローンも開発されている。ドローンで助かる命もある。テロリスト抑止にもならず、社会の発展を止めるような「規制」なら百害あって一利なしだろう。
※「卓見異見」は毎週月曜日に日刊工業新聞で4人の執筆陣が交代でユニークな視点でさまざまなテーマを取り上げています。現在は坂村氏のほか、立川敬二氏(立川技術経営研究所代表)、秋山ゆかり氏(レオネッサ社長)、蒲島郁夫氏(熊本県知事)です。新聞、電子版でぜひご覧下さい。
マスコミが対比するのはここでも米国。ただし「規制先進国」としてだ。米国では軍用ドローンはいざしらず、民間ドローンについては非常に規制が厳しい。肝心の商業利用がそもそも原則禁止。利用を急ぐ産業界は米連邦航空局に申請し、その都度例外措置を取得しているが、それでも高度122メートル以上飛行禁止、夜間もカメラ操縦も当然自律飛行も禁止、地上の操縦者から見える範囲でしか飛ばせない。その操縦者も航空機操縦免許が必要。米国の産業界はこぞってこの「規制」の緩和を求めている。
「テロ対策先進国、ドローンにも素早く対策」と思うが、実はこれはテロやドローンが話題になるよりはるか以前からの規制。航空交通過密の米国の事情によるものだ。小型機が多用され、そこら中に空港がある米国では、航空管制外のラジコン航空機が紛れ込めば事故につながるからだ。実際米国は、この古くなった規制見直しを検討しているし、同時に一般航空機と無人機を統合管制するシステム開発を米航空宇宙局(NASA)で開始するなど、未来を見据えて布石を打っている。
【公共の利益とバランス】
では、テロ対策としての規制はと考えると、冷静に考えればわかるが、法律を守らないのがテロリスト。「首相官邸上空ドローン飛行禁止」と決めるだけで済むならこんな楽な話はない。また、実際問題として土地の空中権があるので、他人の頭上で飛ばすには今でも地権者の許可が必要だ。首相官邸の屋上を報道ヘリが撮影しているように商業用の有人航空機が他人の家の上も飛べるのは、操縦免許、安全基準、機種認定、点検規則、飛行申請、保険などの制度によりリスク管理され、公共の利益とのバランスで許されているからにすぎない。
今でもドローンの実験ができる場所がなくて、研究者が困っているぐらいで、どこでも勝手に飛ばせるなどという話はない。むしろ、日本のドローン開発者が希望しているのは、有人航空機のような皆が納得する規制を早く制定して、社会的に商用ドローンの立ち位置を定めてほしいということだ。
その意味では「規制を急げ」というマスコミの論調は追い風だが、関係者が求めているのは「適切な規制」であって、拙速に決めた「使わせないための規制」ではない。むしろ恐怖で社会判断を歪(ゆが)めるというテロの定義からすれば、それこそまさに思う壺(つぼ)だろう。
【将来につながる規制を】
少し前に、自動車爆弾テロが多発し問題になったが、これが今下火なのは「規制」が整備されたからではない。施設への進入路の設計や障害物の配備など、重要施設での自動車爆弾対策が進んだからだ。テロ先進国の米国は、首相官邸と違い、規制に頼るのでもなくホワイトハウスの屋上に狙撃銃を持つ特別要員を常時配置している。対空砲が配備されているという噂(うわさ)もある。
実際問題として、ドローンは見知らぬ脅威だから過剰に恐れられているだけ。軍用ではなく民生用のドローンは自動車爆弾や航空機の自爆テロに比べればはるかに排除しやすい。軽く華奢(きゃしゃ)で、かすみ網でも止められるし、大出力電波でも動作不能にできる。パニックになる必要はない。規制をするなら、免許と併せ自動車のように、電波や光を使って誰何(すいか)に答えるトランスポンダー式の電子的なナンバープレートを義務付け、不審ドローンを簡単に識別できる次世代航空管制システムといった将来につながる方向で進むべきだろう。
海外では倒れた人のもとにすばやく飛ぶ自動体外式除細動器(AED)ドローンも開発されている。ドローンで助かる命もある。テロリスト抑止にもならず、社会の発展を止めるような「規制」なら百害あって一利なしだろう。
※「卓見異見」は毎週月曜日に日刊工業新聞で4人の執筆陣が交代でユニークな視点でさまざまなテーマを取り上げています。現在は坂村氏のほか、立川敬二氏(立川技術経営研究所代表)、秋山ゆかり氏(レオネッサ社長)、蒲島郁夫氏(熊本県知事)です。新聞、電子版でぜひご覧下さい。
日刊工業新聞2015年05月04日 パーソン面