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“ニッポンの鴻海”になれなかった船井電機はどこへ行く

会長・社長は退任、新体制でどん底からの脱却目指す
“ニッポンの鴻海”になれなかった船井電機はどこへ行く

北米で販売している4K液晶テレビ(船井電機提供)

*大型4Kテレビ国内投入、ブランド化も
 船井電機は2017年度から、40インチ以上の大型4K液晶テレビを国内市場に投入する。4K対応のブルーレイディスク(BD)プレーヤーや4K放送対応の受信アンテナなど、グループ各社が持つ商材と組み合わせて拡販する考えだ。同社は業績回復に向け、北米市場以外でテレビ事業を拡大することが急務になっていた。北米などで展開している「FUNAI」ブランドでの販売も視野に入れ、国内でのブランド強化を目指す。

 4Kテレビはフルハイビジョンの約4倍の解像度を持つ。総務省は18年に4K実用放送開始を目標に掲げており、これに向けて大型4K液晶テレビを投入する。

 これまで国内では、船井電機傘下のDXアンテナ(神戸市兵庫区)を通じて「DXブロードテック」のブランド名で19―32インチの低価格帯製品を販売してきた。一方、大型の4Kテレビは売上高の約8割を占める北米だけで展開していた。

 ただ北米でのテレビ事業の不振により、16年3月期は362億円の当期赤字を計上。業績回復に向け、北米以外での事業拡大が課題となっていた。次期社長への就任が内定し、代表権を有する前田哲宏取締役執行役員は「北米での4Kテレビ普及に加え、日本や東南アジアにも展開し市場を拡大していく」と意気込む。

 同社は9月にメキシコ工場を新たに稼働させ、50インチ以上の高精細な4Kテレビを中心に販売攻勢を強める。17年度3月期は米州で約450万台の販売目標を掲げている。

 一方、国内では比較的安価な4Kテレビも投入する計画。ただ競合相手も安価な製品を投入する気配をみせており、価格競争の激化に伴う利幅の減少が懸念される。BDプレーヤーやアンテナと組み合わせ、4K対応製品の統一性を前面に出して大手競合メーカーに対抗する構えだ。

医療・健康事業を第2の柱に


日刊工業新聞2016年5月20日


 船井電機は医療・健康事業の拡大に乗り出す。液晶テレビやブルーレイディスクレコーダーなど主力事業が伸び悩んでいるため、既存の製品開発で培った技術や特許を医療機器開発や医療・健康サービス産業に応用し、第2の事業軸に育てる考えだ。試作や検証を重ね、2020年に医療・健康事業の売上高100億円を狙う。

阪大と連携、交流相手広げる


 同社は4月、大阪大学大学院医学系研究科や同大学付属病院と包括連携協定を締結。阪大が主導する医療・健康分野のイノベーション創出を目的とした産官学連携組織に参加した。同組織には幅広い業種の企業や自治体などが加盟しており、同社は今まで交流のなかった相手との情報交換が可能になると期待している。

 この活動に参加することで、具体的な事業化の可能性を検討。商品開発やモジュールの提供など、医療産業に自社技術をどのように応用できるか方向性を模索する。同社は京都大学とも医療分野での協力体制を構築しており、映像やインクジェット、モーター制御、センサー制御などの中核技術を医療・健康産業へ展開していく。

 具体的な技術展開の構想として、同社の岡田譲二開発技術本部長はアスカネット(広島市安佐南区)と共同で開発した「空中タッチパネル」を例に挙げる。アスカネットの「エアリアルイメージングプレート」を搭載し、空中に浮かんだ映像をタッチパネルとして操作できるようにした装置だ。

 車載用やATMでの採用を見込むが、医療分野への応用も期待している。岡田本部長は「医者が手術中でも非接触でパソコンを操作できる」と説明。患者の情報確認や手術ナビゲーションなどを想定しており、他社からの反響も少なくないという。「医療用途の実現に向け頑張っていく」(岡田本部長)と意気込みをみせる。

着実な実績も積みあがる


 過去には、船井電機からスピンアウトした医療系ベンチャー企業のRT.ワークス(大阪市東成区)が歩行アシストカートを開発した事例もある。またプレキシオン(東京都千代田区)の医療機器に要素技術を提供したり、プレキシオンの歯科用コンピューター断層撮影装置(CT)を船井電機が受託生産したりするなど、実績も積み上がってきた。プレキシオン向けCTは今夏にも量産を開始する予定だ。主力事業は国内市場の縮小などに伴い減速傾向にある。こうした中、同社は医療・健康事業への成長を急いでおり、医療・健康ビジネスがいよいよ立ち上がり始めた。

マネジメントは落ち着くか


日刊工業新聞2016年5月24日



(次期社長の前田哲宏代表取締役執行役員)

 船井電機は23日、次期社長に前田哲宏代表取締役執行役員(61)が就き、林朝則社長(69)が相談役に退く人事を発表した。船井哲良会長(89)も取締役相談役に退く。6月28日開催の株主総会で正式決定。新体制で業績不振からの脱却を急ぐ。

 主力の北米テレビ事業の不振で、2016年3月期連結決算は362億円の当期赤字。赤字額は99年の株式上場以降最大で、慢性的な赤字体質から抜け出せない状況。船井会長と林社長はこの責任を取り退任する。

 同社は14年以降社長交代を頻繁に繰り返してきた。14年1月に社長に就任した上村義一氏は船井会長との対立からわずか9カ月で辞任。林社長が2度目の社長に復帰したが、1年半あまりで再度の社長交代となった。

 23日の会見で前田次期社長は「若手社員の育成に注力し、新たな事業を取り入れて変革した姿をみせたい」と意気込みを示した。
【略歴】
前田 哲宏氏(まえだ・てつひろ)80年(昭55)金沢大院工学研究科修了、同年三洋電機入社。12年船井電機入社。14年新規事業部長執行役員、同年代表取締役。京都府出身。
日刊工業新聞2016年6月6日
尾本憲由
尾本憲由 Omoto Noriyoshi 大阪支社編集局経済部
船井電機と言えば、トヨタ生産方式を参考にしたフナイ・プロダクション・システム(FPS)。その生産効率の高さから、北米など海外市場でのし上がった。退潮著しい国内家電メーカーの中にあって、勝ち組とされた時期もあった。しかしブラウン管テレビとビデオデッキの時代から、液晶テレビやDVD(またはブルーレイ)、さらにはスマートフォンというデジタル時代へと移り変わっても、いまだ生産効率頼みのアナログ時代から脱却できないように見える。鴻海になれなかった船井電機はどこに向かうのか。そしてどん底からどう再建を果たすのか、生き残りへの方程式はまだ解かれていない。

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