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「日本が初めて四半期決算廃止を表明した国になってほしい」(内閣府参与)

<追記あり>公益資本主義を提唱する原丈人氏に聞く。今のガバナンス強化は間違い
「日本が初めて四半期決算廃止を表明した国になってほしい」(内閣府参与)

原氏

 自動車の燃費や会計をめぐる不祥事が起きている。原因とされるのが目標達成への圧力だ。内閣府本府参与を務めるアライアンス・フォーラム財団代表理事の原丈人氏は「短期利益を追求する株主資本主義の下では不正は起きる」と警鐘を鳴らす。そして長期視点に立った経営に取り組む「公益資本主義」を提唱し、四半期決算の廃止を訴える。原氏に日本企業に求められる経営像を聞いた。

 ―燃費や会計の不正が発覚しています。
 「株主資本主義の下では不正は起きやすい。ガバナンス(企業統治)を強化しろと言うが、それは間違いだ。経営者は短期間で利益を上げるように、株主から圧力を受ける。株価や株主資本利益率の呪縛から解き放たないと。『短期では損だが、将来のために投資している』と言えるようにすべきだ」

 ―不正の病巣となった株主資本主義とは。
 「『会社は株主のものだ』と考える株主資本主義は、株主への利益の分配をなるべく多くする。しかも短期に分配しようとするからうまくいかない。中長期的な考え方なら持続的な経営ができる」

 ―短期で成果を出そうとすると、時間やコストがかかる研究・開発に打ち込めず、革新的な技術やビジネスが生まれないということですか。
 「1970年―80年代の米国のベンチャーキャピタル(VC)は、夢のある会社に投資していた。それがIT産業のようなビジネスを生んだ。しかし今のVCは、時間がかかるものにお金を出さない。投資した会社を高く売ることが重視されるからだ」

“仲間”に利益配分を


 ―それでは提唱する公益資本主義とは。
 「会社は従業員、顧客、取引先、地域、地球といった、会社を支える『社中』で成り立っている。その仲間たちに利益を分配するのが公益資本主義だ。中間所得層が増えて所得格差が少なくなり、社会が安定する。経営も長期で考えられる」

 ―長期視点で自分の経営をやりたい経営者も多いはずです。公益資本主義への移行を促すための環境づくりも重要では。
 「四半期決算を廃止すべきだ。短期業績に振り回されないばかりか、頻繁な決算の開示に費やす資源を他の分野に振り向けられる。日本が初めて四半期決算廃止を表明した国になってほしい」

【記者の目・「長期視点」評価の環境整えば】
 原氏によればJR東海の葛西敬之名誉会長は増配を求める株主に『まず顧客のために安全に投資し、次に安全を担う従業員に配分する』と応じたという。安全は業績や配当の安定につながる。投資家など社会が長期視点の経営を評価する環境が整えば、公益資本主義に移行しやすい。
※追記
 ユニリーバのポール・ポールマン氏がCEO就任早々、四半期報告をなくして業績予想を発表しなくなるとデイトレーダーのような投資家から批判されました。一方で売上高を倍にすると長期目標を公表すると長期間の安定配当をのぞむ年金基金のような機関投資家から評価されたそうです。買ってもすぐに売って儲ける投資家がそもそも株主なのかと原さんは言います。長く保有するから株主なはずです。それにクレアンの薗田綾子さんが言ってましたが、長期ビジョンがあるということは会社が将来、存続しているコミットになるはずです。燃費で他社に勝つ競争よりも、10年、20年後にガソリン車をゼロにする開発に打ち込んだ方が将来も優位に立てるはずです。
(聞き手=松木喬)


ファシリテーター・山口豪志の見方


 この原氏の「四半期決算の廃止」という具体的な提言は、とても意味が深いと思う。株式市場における四半期決算を廃止した先行事例として、ユニリーバ(ナスダック)がある。ユニリーバのPaul代表のコメントを引用すると、「Paul氏が2009年にユニリーバのCEOに就任してから最初に目を向けたのは、組織内部の変革だった。同氏がCEOに就任する以前、ユニリーバは10年間ほど業績が横ばいの状態が続いており、株主からの強いプレッシャーにさらされていた。株主からの業績向上要求に応えるために、同社ではITシステムや社員教育といった長期的に競争力をもたらすであろう分野への投資をあきらめ、短期的な業績向上を追求せざるをえない状況にあったという。『長期視点で計画を進めていくためには、株価を気にしながら次の四半期の業績を良くするためだけに働くという誘惑を組織の中から取り払う必要があったのだ。』」

 結果として、この数年のユニリーバ社の株価は順調に推移しており、業績面でも良い結果を残していると言える。株主に対しての、短期利益追求型の事業経営が過去に及ぼした悪影響を加味すると、現状のガバナンス強化というのは、ますますの経営の自由度をさげ、ますます株主への利益還元を強化するカタチへと歪曲されていることが容易に想像できる。

 「会社は、社会の公器」という公益資本主義という名の、人々の営みに則した企業が増えることを切に願い、とともに、今回の原氏の提案が然るべき方々に対して有効に機能することを期待して止まない。
<参考>
http://sustainablejapan.jp/2014/05/21/unilever-sustainability/10482
日刊工業新聞2016年5月25日
原直史
原直史 Hara Naofumi
四半期決算発表を廃止する意見に賛成だ。元々、四半期ごとの情報開示は、ウォールストリートの要求で、ビジネスサイクルに適合したものでもない。企業活動の透明性を確保すべきというなら、期間よりその内容の方が重要で、内容を適正・適切にすれば、6か月ごとの開示で充分だろう。その間に予測しなかった事態が発生すれば、臨時に情報開示を行えば良い。四半期開示の問題にしても、最近のコーポレートガバナンスは、金融資本に都合の良い議論になっているような気がする。企業は社会のためにある、企業は市場の声に耳を傾けるべきである、そこに言う社会と市場は、金融資本と同意義ではない。

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