ロボットは人か、道具か、エージェントか
情報ネットワーク法学会のロボット法研究会設立。共生社会をテーマに議論
情報ネットワーク法学会のロボット法研究会設立記念シポジウムが開かれた。ドローンとロボット共生社会をテーマに13人の論客が実用化に向けた法的課題などを議論した。法学者とロボット研究者、事業家が一堂に会して社会的影響を検証する。
第一回研究会の今回は問題点の洗い出しを中心に議論した。ドローンのセッションでは花水木法律事務所(大阪市中央区)の小林正啓弁護士が司会を務め、千葉大学の野波健蔵特別教授がドローンの実用化動向を紹介。総務省の田原康生電波政策課長が関連政策、慶応義塾大学の古谷知之教授が慶大で進めているドローン協創コンソーシアムやビジネスチャンスを紹介した。
ドローンは航空法が改正され、総務省はロボット用の電波帯域を設けるため電波法を再検討している。国際基督教大学の寺田麻佑准教授が操縦者の免許制や機体の登録制などの行政法について、ひかり総合法律事務所(東京都港区)板倉陽一郎弁護士がプライバシー侵害やドローンを使った犯罪などの諸問題について解説した。
板倉弁護士はドローンの私有地上空の飛行差し止めについて「土地の所有者が、ドローン飛行によって土地利用権を妨げられているとすれば、どんな場合があり、それは立証できるのか」と提起した。建物の100メートル上空を飛んでいても、ドローンが何をしているのか住民にはわからない。カメラの向きはともかく、ズーム倍率や解像度は把握しようがない。
寺田准教授は空路の設定について提起した。墜落やドローン同士の衝突リスクを考えると自由に飛ばすよりもハイウェイを設定した方が効率的だ。衝突回避の技術開発よりも交通整備をした方が安価で早く実用化できる可能性はある。道路は車体が対向するように車線を引いて右側通行、左側通行と設計されている。空路は高さで分離できるため自由度は高い。寺田准教授は「未登録機体への罰則や、電池残量の安全設計など検討すべき課題は少なくない」と指摘する。特に空路や安全性の設計はドローン管制システムの設計と切り離せない。パッケージ輸出を見据えた技術とルールの融合戦略が必要になる。
ロボット共生社会のセッションでは新保史生慶大教授(同研究会主査)を司会に、法学者が論点を整理した。法哲学が専門の大屋雄裕慶大教授は「人類はヒトを優越する機械を受容できるか」と展開。「寿命のないAIやロボットには拘禁などの刑罰が効かないため、刑罰に支えられた人間の社会の根幹を揺るがす」という。この議論はロボやAIが権利や責任の主体であることが前提だ。道具(物)ではなく、人間に近い存在(者)として扱う。人が集まった「法人」のように「機人」などと新枠を作り、損害補償用の財産などを認める必要が出てくる。
中央大学の平野晋教授は完全自動運転を例に、「直進すれば5人が乗った車と衝突し、右に避ければ一人乗りの車とぶつかる。左によければ自分が橋の下に転落するというトロッコ問題に答えを出さなくてはいけない時がきた」と提案した。自動運転AIに命の数や寿命の総和で、誰にリスクを被せるか判断させるのだろうか。
ロボットやAIを人間のように扱うか、道具なのか、代理エージェントなのかは議論が白熱するテーマだ。独ザールラント大学のゲオルグ・ボルゲス教授は「AIは人か、道具か、エージェントか、などドイツでの議論テーマと同じだ。世界的なテーマであると確認できた」という。そして「ドイツでは道具として扱われている。トロッコ問題は命の選択を機械にはさせないことになっている」という。
またロボットが起こした事故について責任の分配も議論になった。メーカーとユーザーに加えて、ロボット用アプリやAIの学習データ、ネットワークなどの提供者など関係者が増えている。この組み合わせは複雑化していて、すべての組み合わせで安全性を検証することはほぼ不可能だ。情報セキュリティ大学院大学の湯淺墾道教授は「動画サイトの違法コンテンツの削除など、最大限の努力をすれば免責される『ベストエフォート型』で充分か」と指摘する。コミュニケーションロボットを悪用した個人情報収集や、大型ドローンによる体当たり傷害事件などロボットの悪用は発想の数だけ広がる。
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第一回研究会の今回は問題点の洗い出しを中心に議論した。ドローンのセッションでは花水木法律事務所(大阪市中央区)の小林正啓弁護士が司会を務め、千葉大学の野波健蔵特別教授がドローンの実用化動向を紹介。総務省の田原康生電波政策課長が関連政策、慶応義塾大学の古谷知之教授が慶大で進めているドローン協創コンソーシアムやビジネスチャンスを紹介した。
法整備進むドローン
ドローンは航空法が改正され、総務省はロボット用の電波帯域を設けるため電波法を再検討している。国際基督教大学の寺田麻佑准教授が操縦者の免許制や機体の登録制などの行政法について、ひかり総合法律事務所(東京都港区)板倉陽一郎弁護士がプライバシー侵害やドローンを使った犯罪などの諸問題について解説した。
板倉弁護士はドローンの私有地上空の飛行差し止めについて「土地の所有者が、ドローン飛行によって土地利用権を妨げられているとすれば、どんな場合があり、それは立証できるのか」と提起した。建物の100メートル上空を飛んでいても、ドローンが何をしているのか住民にはわからない。カメラの向きはともかく、ズーム倍率や解像度は把握しようがない。
寺田准教授は空路の設定について提起した。墜落やドローン同士の衝突リスクを考えると自由に飛ばすよりもハイウェイを設定した方が効率的だ。衝突回避の技術開発よりも交通整備をした方が安価で早く実用化できる可能性はある。道路は車体が対向するように車線を引いて右側通行、左側通行と設計されている。空路は高さで分離できるため自由度は高い。寺田准教授は「未登録機体への罰則や、電池残量の安全設計など検討すべき課題は少なくない」と指摘する。特に空路や安全性の設計はドローン管制システムの設計と切り離せない。パッケージ輸出を見据えた技術とルールの融合戦略が必要になる。
ロボットとの共生へ論点整理
ロボット共生社会のセッションでは新保史生慶大教授(同研究会主査)を司会に、法学者が論点を整理した。法哲学が専門の大屋雄裕慶大教授は「人類はヒトを優越する機械を受容できるか」と展開。「寿命のないAIやロボットには拘禁などの刑罰が効かないため、刑罰に支えられた人間の社会の根幹を揺るがす」という。この議論はロボやAIが権利や責任の主体であることが前提だ。道具(物)ではなく、人間に近い存在(者)として扱う。人が集まった「法人」のように「機人」などと新枠を作り、損害補償用の財産などを認める必要が出てくる。
中央大学の平野晋教授は完全自動運転を例に、「直進すれば5人が乗った車と衝突し、右に避ければ一人乗りの車とぶつかる。左によければ自分が橋の下に転落するというトロッコ問題に答えを出さなくてはいけない時がきた」と提案した。自動運転AIに命の数や寿命の総和で、誰にリスクを被せるか判断させるのだろうか。
ロボットやAIを人間のように扱うか、道具なのか、代理エージェントなのかは議論が白熱するテーマだ。独ザールラント大学のゲオルグ・ボルゲス教授は「AIは人か、道具か、エージェントか、などドイツでの議論テーマと同じだ。世界的なテーマであると確認できた」という。そして「ドイツでは道具として扱われている。トロッコ問題は命の選択を機械にはさせないことになっている」という。
誰の責任、関係者は増え複雑に
またロボットが起こした事故について責任の分配も議論になった。メーカーとユーザーに加えて、ロボット用アプリやAIの学習データ、ネットワークなどの提供者など関係者が増えている。この組み合わせは複雑化していて、すべての組み合わせで安全性を検証することはほぼ不可能だ。情報セキュリティ大学院大学の湯淺墾道教授は「動画サイトの違法コンテンツの削除など、最大限の努力をすれば免責される『ベストエフォート型』で充分か」と指摘する。コミュニケーションロボットを悪用した個人情報収集や、大型ドローンによる体当たり傷害事件などロボットの悪用は発想の数だけ広がる。
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