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ハノーバーメッセでドイツが見せつけた「インダストリー4.0」の勢い

文=三治信一朗(NTTデータ経営研究所)多勢に無勢の強さ
ハノーバーメッセでドイツが見せつけた「インダストリー4.0」の勢い

4月下旬に開かれた「ハノーバーメッセ」の会場

 ハノーバーメッセに行ってきた。ハノーバーメッセはドイツのハノーバーで行われる、いうまでもなく世界最大の産業機械関連の展示会といってよい。今回の目玉はオバマ大統領の視察と講演であった。私がハノーバー空港離陸時にボーイング747のエアフォースワンが駐機場にいるのをみかけて、興奮を覚えた。隣に座っていたドイツ人もオバマが来るのだと興奮気味であった。

 米国はSELECT USAを展開し、主要な研究機関と大学、そして先鋭的な企業の展示を行っていた。各所のブースそのものはほぼポスター展示のみであったが、その展示数とハノーバー市内でみられる告知は際立っており、力の入りようがよくわかった。

 その数年前は中国をパートナー国として選び、その際には、ドイツ人が中国人を接待している様子が街中でもよく見られたことを思い返した。昨年から徐々に経済に陰りが見え始めてはいるが、ものづくりの覇権国となった中国への近づき方と接し方は非常に上手と言わざるを得ない。

 また、こう振り返ると、国力の動向をよくみてドイツが戦略的に動いているとしか思えない働きかけをしていることがわかる。その中国は今回のメッセでも多数のブース展示をしていた。このように、国ごとの勢いとその国がどのように接しようとしているかがよくわかるのが展示会だ。

燃料電池も充実


 技術動向も同様に興味深い示唆を与えてくれる。キーワードを二つ挙げるとすれば、燃料電池技術とドイツの産業政策「インダストリー4・0」であろう。燃料電池のブースは近年類を見ないほど充実していた。技術が成熟を迎え、普及期に入ったことを予感させた。過去に自動車技術の将来動向調査を手がけた身としては、パワートレイン系の技術としてこれまで遠い将来の技術と想定されたものがいよいよ身近に入ったと実感するほどの展示量と企業数があった。

 もう一つはやはり、インダストリー4・0である。出始めの頃はどこでもある技術の寄せ集め、あるいはそのコンセプトと見る向きもあった。だが多勢に無勢というか、多くの企業がキャッチコピーでインダストリー4・0関連のことをうたうと、自らも準備をしているのか?と身構えるほどになってしまうのがよくわかる。

 この視察を通じ、よくよく将来の見通しを適切にもつこと、自らやるべきことをいかにしつこくやることが大事だと感じた。ドイツから学ぶべきことは非常に多い。
三治信一朗(さんじ・しんいちろう)NTTデータ経営研究所 事業戦略コンサルティングユニット 産業戦略チームリーダー シニアマネージャー。2003年(平15)早大院理工学研究科物理学及応用物理学専攻修了、同年三菱総合研究所入社。15年NTTデータ経営研究所に入社し産業戦略チームリーダー
日刊工業新聞2016年5月13日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
燃料電池が充実していたというのは、トヨタやホンダが燃料電池車へ舵を切り始めた流れと合致する。FCVはまだまだ先という見方もあるが、案外と予想以上のスピードで未来が近づいてくるかもしれない。ハノーバーメッセに匹敵するBツーBの展示会が日本にないのは残念で仕方がない。

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