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マツダ「CX-9」から見えてくるモノづくり革新の進化

「開発だけでなく生産現場も顧客に価値を提供できるようにしている」
 独自の次世代技術「スカイアクティブ」で成功を収め収益体質を強化してきたマツダ。その成長を支えてきたのが生産と開発部門の連携による「モノ造り革新」だ。本社工場(広島市南区)で新たに生産を始めた新型スポーツ多目的車(SUV)「CX―9」にも、両部門によるすり合わせの成果が盛り込まれている。日本を基点としたモノ造り革新は、開発と生産に加えて調達部門を巻き込みながら、世界に活動の場を広げようとしている。

 マツダはモノ造り革新の一環として、生産現場から得られる加工条件などのさまざまなデータをサーバーで管理し分析・活用し、よりよいモノづくりにつなげている。エンジンの生産では組み立てラインのデータを前工程の機械加工にフィードバッグし、機械加工の精度とエンジンの性能の関係を明らかにして性能向上を図っている。

 例えばピストンとシリンダーの摩擦を下げられれば性能が上がる。生産現場が評価用のエンジンを使ってピストンリングと回転抵抗の関係性を検証して開発部門と共有。ピストンリングの形状を改良してCX―9に搭載する排気量2・5リットルエンジンに適用し、従来より回転抵抗を半減できた。

 「開発だけでなく生産現場も顧客に価値を提供できるようにしている」(担当者)。組み立て工程のデータと機械加工のデータとの連携を深めてエンジン性能を一段と高める方針だ。

 完成車の組み立て工程でも日常的に検証を重ね、次の開発車種の商品性向上につなげている。例えば、音が発生するメカニズムを検証し、それを抑えるために必要な要件や特性を見える化。部品の構造を変えたり、仕様を変えたりしてCX―9では従来モデルより静粛性を向上している。


相反する多様性と共通性を両立


 商品の競争力を高める多様性と、規模の効率を高める共通性という相反する特性を両立するための「モノ造り革新」は、世界販売150万台の中堅クラスのマツダが生き残りをかけて2006年に始めた。

 菖蒲田清孝専務執行役員は、「コストは従来比3割減の目標の近くまで来た。1ドル=80円を切っても収益が上げられる構造改革を進め、円高でも強い体制ができている」と成果に自信をみせる。

 モノ造り革新の次のステージは海外展開に移る。12年に本社工場に導入した独自の水性塗装技術を、海外で初めて中国の生産拠点に展開した。メキシコやタイでは車両やパワートレインの生産拠点を立ち上げたばかりだ。日本で生まれた生産技術を発信し世界のモノづくり力を底上げする。

 さらに今後はこれまでの生産と開発部門の連携だけでなく、調達部門を含めて、グローバルでの部品や材料の調達の最適化を進め、モノ造り革新をさらに推進する考えだ。
日刊工業新聞2016年5月3日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
「CXー9」は新世代技術「スカイアクティブ」とデザインテーマ「魂動」を採用した商品群では7車種目で、最上位車種。新型エンジンは、すでにある同排気量のエンジンをベースに改良。ターボには、エンジンの回転数に応じて送り込む排気の量をバルブで調整する新技術を採用するなどで実用燃費の悪化を防いでいる。従来のCX―9には、米フォードが開発した排気量3700ccV型6気筒エンジンを搭載していた。年間販売計画5万台のうち約8割を北米で販売する。 今後はマツダのモノづくり革新は「インダストリー4.0」の領域に踏み込んでいくこになる。

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