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スズキ、今年度の世界生産を過去最高の305万台に設定

10年前、スズキとシャープは同じ立ち位置にいた
スズキ、今年度の世界生産を過去最高の305万台に設定

スズキの世界生産のほぼ半数を占めるインド事業(マルチ・スズキの生産ライン)

 スズキは2016年度(16年4月―17年3月)の4輪車の世界生産計画を305万台超に設定した。達成すれば14年度の304万台を超え過去最高となる。シェア首位のインドでの生産は150万台規模となる。一方、国内生産は軽自動車販売が厳しく海外現地化も進み、15年度を下回る見通し。16年度は海外シフトが鮮明になる。

 16年度方針として、世界生産計画を取引先などに示した。けん引するのは大黒柱のインド事業。生産台数は15年度(速報値)の142万台から、150万台超えを見込む。17年にはグジャラート州の新工場も稼働する。

 一方、16年度の国内生産は81万台程度を計画。15年度(同)の86万台を下回り、過去10年で最低水準となる見通し。ただ、軽自動車の販売減少も底を打ち、新型車効果も期待されることから17年度以降は上向くとの見方もある。
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スズキとシャープで何が違ったのか


日刊工業新聞2006年11月20日


 トヨタ自動車いすゞ自動車が7日に資本・業務提携を発表。その1カ月前、日産自動車・仏ルノー連合と米ゼネラル・モーターズ(GM)との提携交渉が破談した。自動車業界は合従連衡で騒々しい。そこで、がぜん注目される存在がスズキだ。鈴木修会長は「まだまだ浜松の中小企業」と自嘲(じちょう)気味に話すが、小型車で急成長し06年度は売上高が3兆円の大台にのる。今年、資本関係見直しでGMの庇護(ひご)が外れた。今や実力でグローバル再編の主役になろうとしている。

日産を抜く歴史的な出来事


 各社の2006年度上期(06年4―9月)実績が出そろった。この中に、現在のスズキの実力を示す数字がある。スズキ「59万2725台」、日産「57万5625台」。国内の生産台数で史上初めてスズキが3位に浮上し、日産が4位に転落したのだ。業界にとって歴史的な出来事といってよいだろう。

 日産はスズキから軽自動車のOEM(相手先ブランド)供給を受けており、利幅やモノづくりを考えると、生産台数は製造業の実力値を示す。販売でもスズキは「スイフト」など小型車が好調で、06年1―10月でホンダを上回っている。日本メーカーは3強ではなく、4強時代に突入したといっても過言ではない。

 10年、20年後に振り返ると、スズキにとって06年は重要なエポックイヤーだったと位置づけられるはず。まず、3月にGMのリストラ余波を受け、GMからの出資比率が20%から3%に下がった。事業協力は続くものの、提携戦略は見直しを迫られる。

 次は6月に発表された日産との業務提携拡大。国内市場で相互にOEM供給するほか、スズキのインド工場などで欧州向けの日産車をOEM生産する。日産が「こちらから働きかけた」(志賀俊之最高執行責任者)と話すように、GMなき後の“空き家”を狙う企業も多い。

 8月には小型車専用の国内新工場の建設(静岡県牧ノ原市)と、軽の減産を表明。日欧市場でスイフトや「SX4」の販売が好調で、受注に生産が間に合わず、軽の余力を小型車に回すことにした。軽の減産で現実味を帯びてきたのが、33年間守り続けてきた軽販売のシェアトップをダイハツ工業に譲る可能性が出てきたことだ。


(インドからの逆輸入車を発表する鈴木修会長(右)と鈴木俊宏社長=今年3月)

名誉は選ばず


 1―10月累計販売台数はまだ約1万5000台の差でスズキが上回る。それでも鈴木会長は「名誉は選ばない」と、首位にこだわらない。名誉より大事なものが、小型車で世界で躍進することだと割り切っている。

 国内新工場(年産能力24万台)やインド、ハンガリー、パキスタンなどの各工場の増産により、09年には世界300万台体制になる。06年度は237万台の生産計画で、毎年20万台のペースで増えることになる。

 鈴木会長は春先に「投資を迷っている」とこぼしていた。常々「スズキは中小企業」と口にする。大きくなり過ぎる懸念があるのだろう。300万台といえば、仏ルノーなどと肩を並べ世界トップ10入りする規模だ。

5年で2兆円企業を卒業


 売り上げの成長も急だ。1兆円から2兆円になるのに15年費やしたが、2兆円から3兆円になるのにわずか5年。実は電機業界でも同じペースで売り上げを伸ばす企業がある。シャープだ。シャープの07年3月期の売上高予想は3兆円。やはり5年間で2兆円企業を卒業する。

 両社とも製造業の勝ち組。スズキは世界的な小型車シフトという「ダウンサイジング」の流れにのり、シャープは液晶テレビの「大画面化」をリードしている。大・小こそ違え、得意分野での開発、生産力を前面に押し出していくことは共通している。また、鈴木会長とシャープの町田勝彦社長は、かつての社長の娘婿というのも興味深い。

 ただ、シャープの関係者は「これ以上売り上げが増え社長の目が届かないことが多くなると危険だ」と話す。これはスズキも同じだろう。“会長監査”と呼ばれる工場視察が、生産現場の雰囲気を引き締めてきた。1回の視察で、鈴木会長は100カ所以上の改善点を指摘するといわれている。

 「昨日の常識は今日の非常識」(浜松市行財政改革審議会で)―。“オサム語録”と呼ばれる鈴木会長の発言は、いつもマスコミを楽しませる。ただ会見で独壇場になるのは、依然として修氏の求心力に頼っているように映ってしまう。

 ただ、最終的な意思決定は別にして、現場では世代交代が徐々に進みつつある。小型車が売れる理由について「僕が口を出さなくなったから」(鈴木会長)だとし、現にスイフトの開発は津田紘社長や小野浩孝専務らが主導した。

「井戸を掘るなら真っ先に掘れ」ーこれが中小企業の生きる道


 次の世代へバトンを渡す時に重要になるのは、自主独立経営を目指すのか、あるいは多面外交を繰り広げるのか、または特定メーカーとの協業を深めるのか、である。その意味で07年3月が期限となっているGMのスズキ株(17%)の買い戻しがどうなるか注目される。

 鈴木会長は8日、来日したGMのリチャード・ワゴナー会長と会談した。鈴木会長は「GMの赤字基調を考えると(買い戻しは)難しい」という。それでも「他のメーカーに頼る必要はない」と自信をみせる。軽自動車で研さんした開発・製造のコスト力や品質力は、小型車でも大きな武器となる。今後も日米欧だけでなく、新興市場などを含め小型車の需要は世界的に拡大する見通しだ。「世界の多くのメーカーから提携へのラブコールがある」(アナリスト)だけの実力を持つ。

 次世代の環境技術では、ハイブリッドや燃料電池でGMと共同開発関係にあり、ディーゼルエンジンでは伊フィアットから技術供与を受けている。ただ業容が急拡大する中で、厳しくなる環境規制などに対応する投資や開発を社内資源だけで補えないのも事実だ。

 かつてスズキはトヨタなどが目もくれないインドに進出した。「井戸を掘るなら真っ先に掘れ」(鈴木会長)が中小企業としての生き方だった。サッカー日本代表のオシム監督は就任会見で「まだ古い井戸にも水は残っている」と名語録を残したが、その後をみると積極的に新しい井戸を掘り続けているようにみえる。果たして“オサム”(修)会長は井戸の掘り方を変えるのだろうか―。

※肩書き、内容は当時のもの
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
10年前にスズキの記事を書いた時にシャープのことを比較に出した。同じ3兆円企業になり、それぞれ飛ぶ鳥を落とす勢いだった。スズキはある意味で中小企業を押し通し、シャープは「大企業かつ一流企業」として振る舞おうとして失敗した。

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