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《知財を考える#01》AIで高度化される特許情報の仕事

人でしか出来ない創造的な仕事とは何か?見つめ直す機会に
《知財を考える#01》AIで高度化される特許情報の仕事

右は野崎氏

 安倍晋三政権発足以来、機動的に政策が積み重ねられ、結果、企業収益は改善し、経済の好循環が生まれつつある。この好循環を今後も維持・拡大していくためには、イノベーションを継続的に創出していくことが必要不可欠だ。その礎として、知的財産への取り組みはますます重要な役割を担っている。産業財産権制度の重要性や、知財の創出や保護、活用のあり方についてあらためて考える。

文=野崎篤志(ランドンIP日本事業統括部長)


 目覚ましい発展を見せる人工知能(AI)技術の注目が高まっている。最近もチェスや将棋に続き囲碁で、AIがプロ棋士を相手に3連勝して話題になった。特許情報サービスの分野においても、2015年11月に開かれた特許・情報フェア&コンファレンスにて、データ解析事業を手がけるUBICがAIによる特許情報・分析システムを発表。そして特許庁は16年度に、AIを活用した審査や分類付与・先行技術調査の実証実験を始める。AIをめぐる新たな特許情報業務のあり方について考察する。

 人工知能(Artificial Intelligence=AI)という言葉は、1956年に米国で開催されたダートマス会議で人工知能の父と呼ばれるジョン・マッカーシーが提唱したもの。以来60年の研究開発の歴史があるが、最近のセンサー技術、ストレージ技術そしてビッグデータ解析技術の進展を背景に人工知能技術の発展が著しい。

 米IBMのスーパーコンピューター「ディープブルー」がチェス世界チャンピオンのカスパロフに勝利したのが1996年。富士通研究所の伊藤英紀研究員が開発したコンピューター将棋プログラム「ボンクラーズ」が永世棋聖の称号を持つ米長邦雄氏に勝利したのが2012年。

 そして今年3月、米グーグル・ディープ・マインドが開発したコンピューター囲碁プログラム「AlphaGo」がイ・セド棋士に勝利したのは記憶に新しい。チェスや囲碁に限らず、IBMのコグニティブ・コンピューティング・システムの「ワトソン」は医療分野への適用が図られるなど実際のビジネスへの応用も急速に進んでいる。

<分類・翻訳など効率化。将来の技術予測ツールも>

 特許情報サービスにおけるAIの適用を考えると、過去の膨大な特許情報の蓄積や各国特許庁における機械翻訳精度向上への取り組みを背景に、特許分類の付与や特許明細書の翻訳は、人手によるチェックや編集は一部残るであろうが、AIによって効率化されていくと予想される。

 また、特許調査・分析サービスでは、UBICが15年秋に発表した特許情報・分析システム「PATENT EXPLORER」が注目を集めたが、先行技術調査や無効資料調査などにおいて、発明提案書や無効化または有効性を確認したい対象特許番号を教師信号として入力することで、関連性の高い先行文献を効率よく抽出することは既に実現している。

 しかし、AIの適用で最も期待されるのは、過去の特許情報をベースに将来の技術予測が可能であるか、という点であろう。一例として、既にIBMは特許情報や各種情報をベースに、将来のライセンス活動へ生かすための技術予測ツールの開発を進めており、US9183600「Technology prediction」のような特許を出願・権利化している。

 13年に英オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授は「The Future of Employment(雇用の未来)」において、多岐にわたる仕事がコンピューターの発展によって消滅することを予測した。

 特許情報サービスにおいても、AIによって代替される仕事も確実にあるだろうが、AIを設計するのも、得られた結果を解釈し実行するのは人である。AIの進展を脅威と捉えるよりは、むしろ人でしか出来ないより創造的な仕事とは何かを見つめ直す機会と捉えたい。
<略歴>
野崎篤志(のざき・あつし)慶大院理工学研究科およびK.I.T.虎ノ門院ビジネスアーキテクト修了(工学修士・経営情報修士)。日本技術貿易・IP総研を経て、現職。

日刊工業新聞4月18日付「発明の日・企画特集」
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
業務は効率化されるだろうが、今政府で議論されている「AIの創作物は著作権保護の対象にするべきか」というテーマにも興味がある。 参考記事 http://newswitch.jp/p/3417

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