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パナソニックインダストリー品質不正、計93件…企業統治に厳しい目

「内向き」の体質改革課題

パナソニックグループのコーポレートガバナンス(企業統治)に厳しい目が向けられている。パナソニックインダストリー(PID)が米国の認証規格「UL」に関わる不正をしていた問題で、新たな不正も明らかになった。企業統治の専門家は「親会社がどういう姿勢で子会社を監督・管理してきたかが問われる」と指摘。40年以上不正を続け、社長自ら問題を隠蔽(いんぺい)する内向きの体質を変えられるかが課題になる。(大阪・森下晃行)

「今のところ大きな影響は受けていない。ただ、代替品に調達を切り替えたのは事実だ」。パナソニックインダストリーと取引する企業の営業担当者は足元の状況を説明する。

PIDは1月、成形材料や封止材料などで、安全や品質に関わる米国の認証機関「ULソリューションズ」登録の際に不正があったと発表した。基板材料では、難燃性試験の測定データを書き換えて同機関に提出し、登録を得るなどしていた。

外部調査委員会を設置して調べた結果、顧客との取引などでも不正があったと11月に明らかにした。必要な検査を実施しなかったり検査成績書の数値を改ざんしたりしていた。

7月に計12件と公表していた不正の件数は、UL以外も発覚したことで計93件に膨らんだ。PIDが扱う製品は年間で約60万品番あり、うち約5200品番で不正があった。関係する取引先は約4000社に及ぶ。「現時点で不具合の報告は受けていない」(坂本真治PID社長)というが、事態は深刻だ。

不正はなぜ生じたのか。調査委員会の報告書は品質保証に対する理解不足や品質部門の機能が弱かったことなどを挙げている。組織風土の問題もある。従業員や管理職の間で不正の事実が伝わらない硬直した組織だった。坂本社長は「現場の困りごとや実態を経営側が十分に汲み上げられなかった」とする。

古くは1980年代から製品サンプルのすり替えなどが行われており、問題を認識していながら改められなかった体質は根深い。坂本社長自身、一部の不正について2022年に報告を受けていたが、パナソニックホールディングス(HD)に伝えていなかった。

企業統治に詳しい青山学院大学の八田進二名誉教授は「HDという形態のため組織全体が非常に内向き志向になっていて、膿を出し切れなかったのではないか」と分析する。

不正問題を受けて、坂本社長とパナHDの楠見雄規社長は役員報酬の月額50%を4カ月分自主返上する。ただ、「一般的に、役員報酬の自主返上はパフォーマンスに過ぎない。経営者の責任の取り方で最も厳しいのは、自らの進退を問うことだ。本当に生まれ変わろうという姿勢が見えない」(八田名誉教授)という見方もある。

PIDは再発防止の取り組みを既に始めているが、一朝一夕に風土改革はできない。八田名誉教授は「社外取締役という『外の目』による監視を強化しつつ、社内からも倫理観の高い後継者を育てて組織を生まれ変わらせることが必要だ」とも指摘する。実効性のある対策を打ち出せるかが問われている。


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日刊工業新聞 2024年12月04日

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