3000km間の通信遅延17ミリ秒に…NTT、次世代通信「IOWN」用途開発本格化
NTTが次世代光通信基盤「IOWN(アイオン)」の用途開発を本格化させている。日本と台湾のデータセンター(DC)間をIOWNでつなぎ、日本のDCで障害が発生しても台湾のDCを用いて迅速にITサービスを復旧させる実証実験を開始。米国、英国に続き、インドにあるDC間をIOWNで接続する実証も始めた。高速通信や低遅延性を生かしたIOWNの国際規模での普及に弾みをつける。(編集委員・水嶋真人)
NTTは、NTT武蔵野研究開発センタ(東京都武蔵野市)と台湾の通信大手、中華電信の桃園DC(桃園市)をIOWNの低遅延通信技術「オール光ネットワーク(APN)」で接続済み。この約3000キロメートル間の通信の遅延を約17ミリ秒に抑えることができる。
フレッツ光などの現状の通信サービスでは台湾のDCから日本国内にある工場へのバックアップデータの送信に約2分半かかっていたが、APNを使った実験では1分以内に短縮できた。木下真吾NTT執行役員は、海外のDCとAPN接続することにより、国内で大規模広域災害が発生しても「データの信頼性を確実に上げられる」とする。
インド・ムンバイにあるNTTデータグループのDC3カ所をAPNで接続する分散型DCの実証も始めた。海外では米国、英国に続き3カ国目の実証となる。約89キロメートル離れたDC間をAPNで結んだ英国での実証では遅延を0・893ミリ秒に抑えられた。APNの低遅延性を生かせば、これまでよりも遠い場所にあるDC間を接続でき、DC建設候補地の対象を増やせる。
さらに、DCごとに負荷を調整することも可能になる。例えば、晴天で太陽光発電量が多い北海道のDC負荷を増やし、曇天で太陽光発電量が少ない九州のDCの負荷を減らすことでDC運用における再生可能エネルギーの利用を増やせる。
大手クラウド事業者はシステムの安定稼働や耐障害性、拡張性を確保するため、各地に点在するDCをつないで計算処理を分散させる分散型DCの構築を進めている。この需要をAPNで取り込む。
木下執行役員は、第5世代通信(5G)基地局の運用効率化にもAPNが貢献できる可能性を示した。5G基地局制御装置は現状約10キロメートル先までのアンテナしか接続できないが、APN接続で約30キロメートル先のアンテナの制御が可能になる見込み。昼間に人口が増えた商業地に住宅地にあるアンテナを活用するなどして「例えば消費電力を半減することも可能になる」(木下執行役員)との見通しを示した。