EU・産油国の対立解消先送りの公算…プラスチック規制条約案、詰めへ最終交渉
プラスチック廃棄物汚染を防ぐ条約案を決定する国際交渉が25日、韓国・釜山で幕を開ける。2022年に始まった交渉はプラスチックの生産規制をめぐって欧州連合(EU)と産油国が対立し、難航してきた。最終回となる今回の国際交渉では、対立点の解消を先送りして条約案の合意を優先するとの見方が支配的だ。プラスチック規制は産業界への影響が大きく、日本企業も結果を注視する。(編集委員・松木喬)
COP見据え 最初の山場
条約制定を目指す今回の交渉は、第5回政府間交渉委員会(INC5)と呼ばれる。日本は経済産業や環境など4省からなる40人の交渉団を結成して臨む。会期は12月1日までだが、韓国側は延長を見越して2日も会場を確保しており、環境省幹部は「最終日は夜通しの会議になるだろう」と身構える。
前回の交渉は24年4月に開かれ、まとまった草案は77ページ。各国の主張をすべて盛り込んだため分厚く、条文も読みづらい。そこで9月以降、議長が非公式文書を提案している。「長文で複雑な草案をベースに交渉してもまとまらない。だから簡素にした」(環境省幹部)と議長の意図を解説する。
非政府組織(NGO)のグリーンピース・ジャパンの小池宏隆シニア政策渉外担当は「INC5で決めること、INC5以降に決めることに交渉内容を分けた」と非公式文書を分析する。INC5は条約案の決定を優先し、対立点の解消を先送りする公算が大きい。
交渉を難航させている最大の争点が生産規制だ。欧州連合(EU)は一次プラスチックポリマー(新規プラスチック材)の生産削減を求めている。生産量を絞ることで、廃棄物の発生を減らせるという主張だ。島しょ国やアフリカの国々も支持しており、米国も近い立場だ。
一方、中国や産油国、ロシアは生産削減に反対だ。日本も一律の削減に反対し、国別行動計画の策定を提案している。各国が自国の事情に応じて温室効果ガス(GHG)排出削減目標を設定する「パリ協定」と似た“自主目標方式”だ。各国の裁量に委ねるため、条約への参加国が増えて世界全体で対策が進むと主張する。
ほかにも「問題のある製品」や「回避可能な製品」の制限も争点だ。どちらも定義はないが、EUは有害物質や使い捨て製品を念頭に禁止を求めている。これに対してロシアと産油国は反対だ。日本と中国は統一基準づくりを支持しつつも対象製品の特定には慎重だ。
INC5では冒頭、議長が提案した非公式文書を正式な草案として採択する手続きがあり、「最初のヤマ場」(環境省幹部)。非公式文書では生産規制に触れられていないため、不満を持つ国が採択に反対して紛糾する可能性がある。
最終日までに条約案に合意できても「あくまでスタートであって、ゴールではない」(同)。今後、外交会議を開いて正式な条約にする。その後、各国で条約批准の手続きが始まり、批准国が一定数に達すると発効して締約国会議(COP)が設置される。INC5では外交会議の日程を決める予定だ。先送りする生産規制などの詳細ルールは、COPで話し合うことになる。
日本企業、神経とがらす
国内でもINC5への関心が高まっている。プラスチック問題の解決に取り組むクリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA、509社・団体)事務局の中村健太郎主幹によると、「各国から意見が出ているが、採用する、しないとも決定してない不安定な状況であり、不安を感じる会員も少なくない」と企業の声を代弁する。EUが主張する有害物質の規制が決まったとしても、代替物質がない場合も想定される。また生分解性プラスチックにも消極的だ。EUの提案は具体的であるだけに、企業はどうしても敏感になる。
また「日本が長年、力を入れてきた廃棄物管理、リサイクルが評価される仕組みが望ましい。資源循環のために回収リサイクルを進化させ、再生材の供給を増やす必要がある」(中村主幹)と訴える。