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賞金総額2億円…量子チャレンジ、NEDO活用プログラムで問われる地力

課題・解法・人材を社会から募集

賞金総額約2億円の量子コンピューター研究開発事業が動き出す。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の懸賞金活用型プログラムで過去最大の規模になる。特徴は課題も解法も人材も社会から集める点だ。NEDOがやりたくてもできなかったスキームをすべて盛り込んだ。開始前の利害調整や予定調和はほぼなく、NEDOの地力が問われる。(小寺貴之)

「NEDOがやれなかったことを全部盛り込んだ」とNEDOの工藤祥裕量子ユニット長は説明する。量子コンピューターで社会課題を解く懸賞事業の課題募集を始めた。一般にNEDO事業は国が戦略的に設定した技術課題に対し、解法を持つ事業者を選んで資金を提供する。解法や開発体制、実績だけでなく、研究成果への実用化も求める。

新事業では量子コンピューターを使うことは決まっているが、課題も解き方も解く人材も広く募る。課題は社会にとって重要であれば、技術要素を整理する前の課題でも受け付ける。審査後に数カ月かけて懸賞金コンテストにふさわしい形に整える。つまり課題提案者は自身で量子計算の問題を設計しなくても済む。産業界からデータを集めるなど、「重要な提案にはコストをかけていく」(工藤ユニット長)予定だ。

本来、社会課題を計算問題に直す仕事は計算科学のベンチマークを作ったり、その業界にデータサイエンティストを集めたりする重要な仕事だ。事業に協力する三井物産の越田誠量子イノベーション室長は「量子技術よりも、ドメイン(事業領域)に深く根ざした課題提案が重要。それが量子技術と業界を結び付ける」と説明する。

課題を解く人材も広く募る。数学や情報科学の素養のある若手に加え、異分野の専門家に量子教育プログラムを提供し、コンテストで現役の量子コンピューター技術者と戦えるよう育てる。教材や演習問題の提供に加え、毎週ゼミや講演会を開いて多分野の人材が学び合うコミュニティーを作る。

ソフトバンクの山内啓嗣量子技術開発課担当課長は「課題提案と解決の両方に挑戦する。社内からどれだけ手が挙がるか」と気を引き締める。課題も人材も走りながら集めて育てる難しさはあるものの、その困難さ自体を人材育成や協業を広げる機会とする。課題や量子教育プログラムへの応募締め切りは12月13日。優れた課題と挑戦者が集まるか注目される。

日刊工業新聞 2024年11月20日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
メディアの立場から課題を提案させてもらえるなら、フェイク生成やAIコピーのつながりを追いかける計算技術が今後必要になると思います。生成AIの登場で一つの作品をコピーして作品を作るような状況ではなくなりました。これまで著作権侵害の事案では一対一関係の類似性や依拠性が問われてきましたが、多対一になり、一つ一つの関係はゆるいものになると思います。そのため参照関係の連鎖構造を見ていく必要があると思います。これはグラフ構造データから参照関係を探す、組み合わせ最適化問題に落とし込めると思います。個人で活動するクリエーターなど、守りの甘いソースからとってきて作品を連産する。この仕事は人間がやると面白くないので、だんだんずさんになっていって、バレないとふむと受けがよかったソース元に集約されていきます。一つ一つの類似性は弱くても、継続的にパクっているなら依拠性の根拠になりえるのではないか、少なくとも悪質な確信犯はあぶり出せるのではないかと思います。ソース側が連携して侵害を訴えることも可能になるかもしれません。とはいえ、組み合わせ選択にも創造性はあるし、そんな技術があるとわかれば機械的にソースを分散させます。著作権侵害は難しくとも、フェイク論文やペーパーミル対策、政策文章の引用元解析などにも使えるはずで、開発する価値はあるはずです。記者が無知なだけで量子コンピューターがなくても解決できるのかもしれません。解法があればと思います。

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