ニュースイッチ

【熊本・大分地震】慎重を期して行動するトヨタの姿勢が見える

<追記あり>車・半導体に試練。生産正常化まで時間
 熊本県で14日夜に震度7の地震が起き、15日から17日にかけては熊本県や大分県を中心に震度6強などの強い揺れが相次いだ。今回の地震の影響で自動車や電機などの工場の操業が休止、長引く恐れが出ている。各社は生産ラインの停止や、調達・供給といったサプライチェーンへの影響の調査など対応に追われている。

トヨタ「6日間」組み立てを段階的に停止


 九州には自動車産業が集積しており影響が出ている。トヨタ自動車は17日、熊本地震で部品調達に支障が出るため18日―23日までの6日間、国内の車両組み立てラインを段階的に停止すると発表した。愛知製鋼の工場爆発事故の影響で2月に国内すべての車両組み立てラインを6日間停止したトヨタ。挽回生産を始めた直後に新たな試練に直面した。

 トヨタ自動車九州(福岡県宮若市)は15日、16日に福岡県内の工場を停止。引き続き18日からも停止する。19日からトヨタの愛知県内の工場などが順次停止していく。稼働停止の対象外となるのは日野自動車の羽村工場(東京都羽村市)第4ライン、ダイハツ工業の池田工場(大阪府池田市)、トヨタ自動車東日本の東富士工場(静岡県裾野市)の高級車「センチュリー」ラインのみだ。

 トヨタは今回の工場停止による減産台数を公表していないが、2月の6日間の停止では9万台に達した。九州でのサプライチェーンの乱れが全国に波及したことで、管理の難しさが改めて浮き彫りになった。

九州圏外にも影響。岡山の三菱自動車も休止に


 日産自動車の子会社日産自動車九州(福岡県苅田町)は15日に平常通り稼働した。16日も稼働を予定していたが、部品調達の影響で休止。18日以降は通常稼働に戻す。

 影響は九州圏外にも及んでいる。三菱自動車は部品の調達見込みが立たないため、水島製作所(岡山県倉敷市)の車両生産ラインを18―19日の2日間停止する。タイミングチェーンケースを調達するアイシン精機の熊本県の工場が被災。生産回復の見込みも立たないため、20日以降の操業は18日以降に検討する。

 九州は半導体産業も集積している。多くは自動車や産業機器、スマートフォンなどの民生機器向けに供給されている。被害の大きい熊本県内には、ソニーやルネサスエレクトロニクスなど半導体主要メーカーの生産拠点が計7カ所存在する。

ソニー、スマホ向け半導体で痛手


 ソニーは主にCMOS(金属相補型金属酸化膜半導体)画像センサーを生産する、子会社のソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(熊本県菊陽町)が九州に4拠点を構える。工場を停止しているのは熊本テクノロジーセンター(同)で、生産するCMOS画像センサーはスマートフォンのカメラ向けが最も割合が大きい。

 米アップルの「iPhone(アイフォーン)」などの生産への影響が懸念される。また、大分と長崎の工場で一部稼働停止していた生産ラインは、立ち上げ準備が完了し生産を再開した。

 ルネサスエレクトロニクスは生産子会社、ルネサスセミコンダクタマニュファクチュアリング(茨城県ひたちなか市)の川尻工場(熊本市南区)で、エンジン制御などを行う自動車用のマイコンなどを手がけている。

 同工場は震災発生から現在も稼働を停止しており、再稼働の時期は未定。ルネサスはカスタム品の生産も多く手がけており、長引けば少なからず影響は出てきそうだ。

 突然の地震に襲われた熊本県では、集積する自動車、電機関連企業を中心に事業活動の正常化に向けて全力で取り組んでいる。東日本大震災などの教訓を生かせるか、各社にとっても正念場だ。

ホンダ「2輪国内回帰」が・・


 三菱電機は熊本県内にパワー半導体を手がける工場(熊本県合志市)と、TFT(薄膜トランジスタ)液晶モジュールを手がける工場(同菊池市)を抱える。どちらも生産を止め余震の影響などを注視している。

 パワー半導体は主にハイブリッド車のモーター制御や、民生用のインバータエアコン、産業用工作機械、鉄道向け。また液晶モジュールも工作機械や建設機械などの産業機器や、カーナビゲーションシステムなどの車載機器向けに使われる。供給が滞れば、影響が出てきそうだ。

 アイシン精機グループでは、ドアフレームなどの自動車部品や液晶・半導体製造装置を生産するアイシン九州(熊本市南区)とエンジン部品を生産するアイシン九州キャスティング(同)の合計2工場が15日、16日に続き、18日も停止を決定した。

 ホンダの2輪生産拠点、熊本製作所(熊本県大津町)は18日の操業停止を決めた。被害状況は確認中。ホンダは円安を受けて2輪生産の国内回帰を進めていた。

 昨年には原付きスクーター「ジョルノ」の生産を中国から、16年にスクーター「タクト」「ダンク」の生産をベトナムから移管。年産能力を16万台から25万台へと増産体制を敷いていた。操業停止が長引けばこの勢いに水を差しかねない。

<次のページは、BCP対策は生かされるか>

日刊工業新聞2016年4月18日
中西孝樹
中西孝樹 Nakanishi Takaki ナカニシ自動車産業リサーチ 代表
自動車産業のサプライチェーンは、国内至る所に張り巡らされている。地震が自動車生産活動に影響を及ぼすリスクは常にある。そうは言って、熊本を中心とする今回の大地震が、国内中のトヨタの生産活動へこれ程の影響を及ぼすことには驚きがある。ただし、5年前の東日本大震災で学んだ、二次、三次サプライヤーも含めた調達の複線化は、現在のジャストインタイム生産を持続させることに生きているだろう。それ程長期化せずに、復旧の目処が立つのではないか。生産停止が、国内各社に波及せず、トヨタの主力工場に集中していることから推察するには、部品供給体制の情報確認を進め、それまでまずは工場稼働を停止させるという、慎重を期して行動するトヨタの姿勢が見える。

編集部のおすすめ