東京都中小企業知的財産シンポジウム座談会 【AI活用はじめの一歩 ~最新のAI事情を知り、小さく始める 最良の打ち手を考える~】
2022年11月にOpenAIがChatGPTを公開し、AIが一気に身近なものとなった。しかし、日常的に利用している企業は、中小で1割程度にとどまっているとみられる。そこにはセキュリティーの面などへの不安が横たわる。しかし、AIは業務を効率化し、事業の成長を加速する推進力となる。人口減少が進む中、使わなければ競合に後れを取る。
不安を乗り越え、AI活用に一歩踏み出そう。12月6日に都内で行うシンポジウムに登壇する一般社団法人日本ディープラーニング協会専務理事の岡田隆太朗氏、AIセーフティ・インスティテュート副所長、事務局長の平本健二氏、公益財団法人東京都中小企業振興公社常務理事兼東京都知的財産総合センター荒井英樹所長が、AI活用の行く先を示す。
AIへの関心は高まっているが利用には不安も
荒井 今年のノーベル賞は自然科学3部門すべてがAIに関するものでした。物理学賞を受賞したジェフリー・ヒントン氏は、人工ニューラルネットワークによる機械学習の基礎を築かれ、今日のAI発展をもたらしました。彼は警鐘も鳴らしており、「AIの安全の取り組みを考えていかないと人類に災いを及ぼす可能性がある」と話しています。それも影響してか、AI利用への不安も見受けられます。価格転嫁、人手不足、生産性向上、賃上げ、事業承継、技能継承など様々な問題を抱える中小企業において、現状、AIを毎日使っているところは1%、週2、3回が10%ほどと言われます。大手では一日に数回使うところでも30%以上です。的確な情報を得つつ、まずはやってみることが大事だと思います。
岡田 関心が高まっているのは間違いありません。PwCコンサルティング合同会社が売上高500億円以上の日本国内の企業・組織の課長以上の方々900名に行った生成AI活用に関する実態調査では、2023年春には大半が「活用が未着手・断念」だったのが、2024年春には「活用中」「推進中」に変化しています。
社内コンテストで競い合い 大きな効果を得る企業も
岡田 使うことのリスクより、使わないことのリスクの方が大きくなっています。人手不足が深刻化する中で、業務を効率化しなければ企業は立ち行かなくなります。例えば、社内でAIの使い方コンテストを行い、有効な手法を全社に展開して大きな効果を得ている企業があります。
研究開発も加速します。当協会では高等専門学校生を対象に、ディープラーニングを活用した事業開発コンテストを行っています。24年の最優秀賞作品はAIを活用した電話詐欺対策で、この事業には4億円の企業評価額がつきました。
平本 生成AIが注目されていますが、裏でAIが動いていて知らないうちに使っている製品もあります。画像処理技術による農作物の選果、自動車のドライブアシストなどがそうです。
資料作成やアジェンダ、議事録作成などをはじめ、ネットで簡単に使えるAIサービスはたくさんあります。不安を乗り越えてチャレンジしていかなければ、競合に後れを取る、他業種から侵食されるという事態を招きかねません。身構えることなく、前向きに考えて、まず使ってみることです。
漠然とした不安を具体化することで利用促進
岡田 AIは日々進化します。不安をなくすことはできません。しかし、何かよく分からないという漠然とした不安を、何が問題になるのかを具体化することで不安を和らげることができます。これが利用促進のカギです。
当協会では「生成AIの利用ガイドライン」を公開しています。使用上の禁止事項、著作権や意匠、個人情報などのデータ入力時の注意事項など、すぐに自社に落とし込めるひな形です。23年5月に公表し、1カ月で5万件ダウンロードされ、以降も増え続けています。24年2月には画像編も公開しました。政府の「AI事業者ガイドライン」と併せて使うことを薦めます。
平本 情報処理推進機構(IPA)内に事務局を置くAIセーフティ・インスティテュート(AISI)は9月に「AIセーフティに関する評価観点ガイド」を公開しました。AIシステムの開発・提供において、評価の観点や想定され得るリスクの例、評価項目例、評価の実施者や評価実施時期に関する考え方、評価手法の概要などを記しています。
いずれのガイドラインも法律ではなく考え方や方法を示すものです。このようなガイドラインを参考にすることでAIを安全なだけでなく安心して利用できます。
荒井 文化庁は7月に「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」を公表しました。中小企業にもこうした情報が浸透してきて知財相談も少しずつ増えてきています。今までは、AIを利用した技術で特許取得できるかビジネスモデルを作れるかといった相談と支援が主でした。最近は、生成AIで作成した生成物の事業利用に関する相談が寄せられるようになりました。プロンプトの使い方や、営業秘密や個人情報の扱い、著作権についてのリテラシーを高めていただく必要性を感じております。
教える側の人材育成にも注力
岡田 AIを上手く使えば、仕事はもっと便利にできます。そのためには全社のAIリテラシーを高めることが必要です。当協会では2017年から「G(ジェネラリスト)検定」を行っています。ディープラーニングの基礎知識を有し、適切な活用方針を決めて、事業に活用する能力や知識を有しているかを検定します。
検定試験は年6回、オンラインで行います。AIの進化は著しいので、試験問題は都度変わっていきます。最新動向をキャッチアップするために、特に経営者やAI利活用担当者には継続的な受験を勧めます。
平本 IPAではデジタル人材を育成する「未踏事業」を行っています。ITを駆使してイノベーションを創出する独創的なアイデアと技術を有するとともに、これらを活用する優れた能力を持つ、突出した人材を発掘・育成することを目的とした事業です。00年度にスタートし、これまでに延べ約2000人もの優れた人材を輩出しました。修了生の活躍は当機構のホームページで紹介しています。
サービスとしてのAIは、まずは試してみることです。今はサブスクリプションで手軽に利用できるサービスがたくさんあります。試すことで、サービスができる範囲を実感でき、自社に適したサービスが探せます。AIの進化は目まぐるしく、やっていいこととそうでないこととの境目も動きます。日々、AI関連のニュースをチェックし、社会の動きにアンテナを高めておく必要があります。周りに相談することも欠かせません。AIを賢く使いましょう。
荒井 当センターではAI関連のセミナーを年間数本行っています。シードからアーリー段階のスタートアップ育成も行っています。これらをより広く、より深く支援していくために、教える側の人材の充実に、リスキリングも含めて、取り組んでいく考えです。
関連する特許情報や文献を効率的に集め、研究開発をスピードアップするAIサービスがいくつもあります。最近では、そうした情報から特許技術を多数生み出すことも現実となっています。AI活用は必要不可欠です。
シンポジウム詳細
東京都中小企業知的財産シンポジウム
AI活用 はじめの一歩
~最新のAI事情を知り、小さく始める 最良の打ち手を考える~
日 時:2024年 12月 6日(金)13:00~16:30
場 所:イイノホール(東京都千代田区内幸町2-1-1)
開催方法:来場参加またはライブ配信視聴の選択ができます
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