近づく“審判の日”…継続or転換、揺れる米の気候変動政策
米大統領選の投開票が5日に迫り、米国の気候変動政策にとっても“審判の日”が近づいてきた。現職のバイデン氏は国際社会でリーダーの役割を果たし、国内に脱炭素への巨額投資を呼び込んだ。ハリス候補もバイデン政権の路線を継続すると思われる。一方のトランプ候補は気候変動に懐疑的だ。バイデン政権の功績と両候補者の政策を検証する。(編集委員・松木喬)
功績大きいバイデン氏 雇用・投資呼び込む
バイデン大統領は気候変動外交で“レガシー(遺産)”を残した。前回のトランプ政権下で米国は「パリ協定」から離脱したが、バイデン氏は就任直後の21年2月に復帰させた。さらに4月には気候変動サミットを主催した。20年に予定されていた気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)がコロナ禍で延期となり、バイデン氏には国際社会を再び結束させる狙いがあったのだ。
そのサミットには、経済対立が先鋭化していた中国の習近平国家主席を含め40カ国の首脳を招いた。日本から当時の菅義偉首相も参加し、30年度までに温室効果ガス(GHG)排出量を13年度比46%削減すると宣言した。
サミットの余勢をかって開かれた11月のCOP26で国際社会は、産業革命前からの気温上昇を1・5度Cに抑える目標に合意。石炭火力の削減にも合意し、化石燃料から脱却する道筋をつくった。
バイデン氏は国内でも気候変動政策を推進した。22年8月、10年間で3690億ドル(56兆円)を気候変動対策とエネルギー安全保障に充てるインフレ抑制法(IRA法)を成立させた。ホワイトハウスによれば成立から2年で33万人の雇用を創出し、民間から9000億ドル(136兆円)の投資を呼び込んだ。トヨタ自動車など日本企業も米国に巨額投資を実行した。
シンクタンクの地球環境戦略研究機関プログラムディレクターの田村堅太郎氏は「気候変動対策を法律に位置付けたことは大きな成果。議会をまとめた政治的手腕は、もう少し評価されても良いのでは」と解説する。
一方、米国で生産した製品を優遇する政策を前面に打ち出し、保護主義経済を助長した面もある。関税も強化して安価な中国製品の輸入を制約したことで、米国では脱炭素に必要なコストが上昇したと言われる。半面、雇用などを生んでいるので国内の支持を得られているとの見方もある。
トランプ氏、完全転換難しく ハリス氏、路線継承も沈黙…
選挙でトランプ候補が当選すると前回同様、気候変動政策を転換し、パリ協定から離脱すると予想される。気候変動による深刻な被害を食い止めるためには「30年までが勝負」と言われている。重要な時期での国際連携からの米国の離脱は、世界にとって大きな痛手だ。
トランプ氏はIRA法も標的とする。ただ、大統領選と同時に行われる下院選では民主党が優勢となると、廃止法案を成立させるようとしても難しい。それでも電気自動車(EV)への税控除の執行を止めるなどで、IRA法を無効化する手段を可能性がある。
ただ、IRA法は米国の製造業を勢いづけている。共和党が強い州ほど投資が生まれており、IRA法の無効化には身内議員からの抵抗が予想され、トランプ氏再登板による米国内の気候変動政策への影響が読みにくい。
一方、ハリス候補は現政権を踏襲するものの、バイデン氏以上の政策を打ち出せていない。選挙戦で接戦か、苦戦している州ほど化石燃料産業を抱えており、有権者を刺激して票を失うことは避けたいようだ。
ハリス氏の沈黙の影響なのか、気候変動の国際交渉で「米国がリーダーシップを発揮できていない」と田村氏は指摘する。
各国が新しいGHG排出量削減目標を提出する期限が25年2月に迫っている。11月11日に始まるCOP29は、目標提出に向けた各国の機運を盛り上げる重要な会議となる。オバマ政権だった15年、米国は中国を国際枠組みに引き戻してパリ協定採択の流れを作るなど、節目で存在感を発揮してきた。今は米国の影が薄く、リーダー不在のCOP29となりそうだ。