「葛藤はあったが、単品ビジネスでは太刀打ちできない」(TDK社長)
上釜社長インタビュー。クアルコムとの合弁、その先を聞く
TDKは2017年度までに車載向けの売上構成比率を3割(14年度は17%)に引き上げる計画を掲げるなど非スマホ分野の開拓を積極化している。上釜健宏社長に戦略を聞いた。
―米クアルコムとスマホ向け高周波部品の合弁会社設立を決めた理由は。
「高周波部品は収益源の一つになっていたが、今後はモジュール化が進み我々のような単品部品を提供するビジネスモデルでは太刀打ちできなくなる。葛藤はあったが、業績が好調なうちに良いパートナーと手を組むのは得策だと判断した」
―注力する車載市場は競合他社との競争が激化しています。どう攻めますか。
「当社は他社と比べて一般電子部品だけでなくセンサー、産業用電源、リチウムポリマー電池といった商材を持っているのが強み。これらを活用しパワートレインや非接触給電システムなどの分野を攻めて差別化を図っていきたい」
―電池はここ数年で急成長し、収益の柱になりました。
「今は、スマホ向けがメーンだがロボットといった新しい分野で採用が広がる見通しでまだまだ伸びる。投資を積極化しニーズに応えていく」
―今後、補完すべき製品や技術はありますか。
「車載やIoT分野でセンサーが多用されるため、センサーの品ぞろえを増やし提案力を高めていきたい。センサーに限ったことではないが、成長に向けてさらにM&Aをする必要が出てくるだろう」
(聞き手=下氏香菜子)
TDKが成長市場の開拓を加速するため戦略転換する。米クアルコムと業務提携し、スマホ向けで好調な高周波部品事業を事実上、手放すことを決めた。スマホ向けの依存度を落とし自動車やモノのインターネット(IoT)といった成長分野に経営資源を集中させる。競合に先駆け成長分野で収益力を一段と向上させる。
TDKはクアルコムに収益源の一つである高周波部品事業を合弁会社に移管する。同部品事業を担う独子会社エプコスの従業員約4200人が合弁会社に移り、クアルコムと共同でスマホの通信にかかせないRFフロントエンドモジュールなどの開発を進める。
今回の業務提携で見逃せないのはTDKが合弁会社設立から30カ月後、クアルコムに持ち株を売却できるオプションをつけた点だ。TDKは2008年にエプコスを当時約2000億円で買収しており、オプションを行使すると買収額を上回る最大約30億ユーロ(約3600億円)を手にする。これは事実上の事業売却を意味する。得た資金は自動車や非スマホ分野での成長投資に活用する。
「今が(事業を切り出す)絶妙なタイミングだった」。上釜健宏社長は今回の選択と集中の狙いをこう強調する。TDKがスマホ向けで好調な高周波部品事業を切り出す決断を下した理由の一つが、複数部品をワンパッケージに収める複合部品(モジュール)化の進展。TDKのように1社単独で単品部品を手がけるビジネスモデルは、生き残りが難しい事業環境になりつつあることが背景にある。実際、業界では高周波部品を巡って合従連衡が進む。
最近では構成部品の一つである表面弾性波(SAW)フィルターで世界首位の村田製作所が、14年に約490億円を投じて高周波スイッチ最大手の米ペレグリン・セミコンダクターを買収。モジュールの開発を加速させている。
TDKも将来を見据えて有力なパートナーと手を組む必要があり、同じように高周波部品の技術を取り込もうと触手を伸ばしていたクアルコムと思惑が合致した。ある業界関係者は「スマホの成長が鈍化する中、自動車など他分野で有力な製品を持つTDKが、スマホ向けの高周波部品を自社で抱えることに固執する必要はない」と、今回の経営判断を評価する。
クアルコムはスマホで無類の強さを誇るが「IoTなどスマホ以外でも豊富なラインアップがあり重要なプレーヤー」(上釜社長)になっている。TDKは今後、非スマホ分野の開拓を一気に加速させる。クアルコムとの提携の本命はここにある。
クアルコムはスマホ向けの通信技術に強みを持ち、IoTや車といった分野に横展開し台頭している。TDKは自社が持つ非接触給電システムやバッテリー、センサー、薄膜部品といった製品と組み合わせることで成長事業を一気に拡大できる可能性が広がる。
かつてスマホ向けで出遅れて苦戦し、競合の村田製作所に水をあけられたTDK。”攻めの経営“でいよいよ反転攻勢に出る。
(文=下氏香菜子)
―米クアルコムとスマホ向け高周波部品の合弁会社設立を決めた理由は。
「高周波部品は収益源の一つになっていたが、今後はモジュール化が進み我々のような単品部品を提供するビジネスモデルでは太刀打ちできなくなる。葛藤はあったが、業績が好調なうちに良いパートナーと手を組むのは得策だと判断した」
―注力する車載市場は競合他社との競争が激化しています。どう攻めますか。
「当社は他社と比べて一般電子部品だけでなくセンサー、産業用電源、リチウムポリマー電池といった商材を持っているのが強み。これらを活用しパワートレインや非接触給電システムなどの分野を攻めて差別化を図っていきたい」
―電池はここ数年で急成長し、収益の柱になりました。
「今は、スマホ向けがメーンだがロボットといった新しい分野で採用が広がる見通しでまだまだ伸びる。投資を積極化しニーズに応えていく」
―今後、補完すべき製品や技術はありますか。
「車載やIoT分野でセンサーが多用されるため、センサーの品ぞろえを増やし提案力を高めていきたい。センサーに限ったことではないが、成長に向けてさらにM&Aをする必要が出てくるだろう」
(聞き手=下氏香菜子)
TDK、村田製作所を追随するのは止めます!
日刊工業新聞2016年1月15日
TDKが成長市場の開拓を加速するため戦略転換する。米クアルコムと業務提携し、スマホ向けで好調な高周波部品事業を事実上、手放すことを決めた。スマホ向けの依存度を落とし自動車やモノのインターネット(IoT)といった成長分野に経営資源を集中させる。競合に先駆け成長分野で収益力を一段と向上させる。
TDKはクアルコムに収益源の一つである高周波部品事業を合弁会社に移管する。同部品事業を担う独子会社エプコスの従業員約4200人が合弁会社に移り、クアルコムと共同でスマホの通信にかかせないRFフロントエンドモジュールなどの開発を進める。
今回の業務提携で見逃せないのはTDKが合弁会社設立から30カ月後、クアルコムに持ち株を売却できるオプションをつけた点だ。TDKは2008年にエプコスを当時約2000億円で買収しており、オプションを行使すると買収額を上回る最大約30億ユーロ(約3600億円)を手にする。これは事実上の事業売却を意味する。得た資金は自動車や非スマホ分野での成長投資に活用する。
「今が(事業を切り出す)絶妙なタイミングだった」。上釜健宏社長は今回の選択と集中の狙いをこう強調する。TDKがスマホ向けで好調な高周波部品事業を切り出す決断を下した理由の一つが、複数部品をワンパッケージに収める複合部品(モジュール)化の進展。TDKのように1社単独で単品部品を手がけるビジネスモデルは、生き残りが難しい事業環境になりつつあることが背景にある。実際、業界では高周波部品を巡って合従連衡が進む。
最近では構成部品の一つである表面弾性波(SAW)フィルターで世界首位の村田製作所が、14年に約490億円を投じて高周波スイッチ最大手の米ペレグリン・セミコンダクターを買収。モジュールの開発を加速させている。
非スマホ分野の開拓を一気に
TDKも将来を見据えて有力なパートナーと手を組む必要があり、同じように高周波部品の技術を取り込もうと触手を伸ばしていたクアルコムと思惑が合致した。ある業界関係者は「スマホの成長が鈍化する中、自動車など他分野で有力な製品を持つTDKが、スマホ向けの高周波部品を自社で抱えることに固執する必要はない」と、今回の経営判断を評価する。
クアルコムはスマホで無類の強さを誇るが「IoTなどスマホ以外でも豊富なラインアップがあり重要なプレーヤー」(上釜社長)になっている。TDKは今後、非スマホ分野の開拓を一気に加速させる。クアルコムとの提携の本命はここにある。
クアルコムはスマホ向けの通信技術に強みを持ち、IoTや車といった分野に横展開し台頭している。TDKは自社が持つ非接触給電システムやバッテリー、センサー、薄膜部品といった製品と組み合わせることで成長事業を一気に拡大できる可能性が広がる。
かつてスマホ向けで出遅れて苦戦し、競合の村田製作所に水をあけられたTDK。”攻めの経営“でいよいよ反転攻勢に出る。
(文=下氏香菜子)