鉄イオン酸化還元…産総研、低消費電力で水素生成
産業技術総合研究所の三石雄悟主任研究員と佐山和弘首席研究員らは、水分解の理論電圧より低い電圧での水素生成を実証した。鉄イオンの酸化還元反応を介して水を分解する。鉄イオンとして光のエネルギーを蓄積できるため、太陽光を受けてから需要に合わせて水素を生成できる。大規模実証や詳細なコスト試算を進める。
まず酸化タングステン系光触媒で水分子を酸化しながら鉄イオンを還元する。次に電解反応で鉄イオンを酸化し、水分子を水素に還元する。鉄イオンが安定なため大気中でも2カ月程度はエネルギーを蓄えられる。酸素と水素を分けて製造できる利点もある。
実験では330平方センチメートルの光触媒シートで鉄イオンを還元した。このエネルギー変換効率は0・31%。次に200ミリアンペアの電流を流して水素生成すると電圧は0・9ボルトとなった。これは水分解の理論電圧1・23ボルトよりも小さい。消費電力を抑えられた。
疑似太陽光を用いた耐久性試験では1万80時間後も鉄イオンの生成量が保たれ、劣化はなかった。日本の屋外日射量に換算すると約7年分に当たる。屋外実験では日射量の変動に応じて水素が生成され、投入電力のほとんどが水素生成に消費された。今後、大型実証を進めて経済合理性を示していく。
日刊工業新聞 2024年11月6日