超小型衛星構体で受注獲得…日立市の中小企業が描く、宇宙市場開拓の戦略
アルミ一体構造で高強度 設計から提案、トラブル防ぐ
菊池精機(茨城県日立市、菊池正美社長)は、超小型人工衛星の構体の設計開発・製造に取り組む。民間企業主導の人工衛星プロジェクトに上流工程から携わり、加工にとどまらない提案型の戦略で宇宙市場の開拓を狙う。2019年頃に市場参入を始め、10月に初めて構体の受注を獲得した。宇宙産業の成長を見込み、地域経済活性化への貢献も目指す。(茨城・石川侑弥)
菊池精機は電力インフラ向けの金属加工などを手がける。宇宙事業では「CubeSat(キューブサット)」と呼ばれる規格化された人工衛星の構造体の中で、基板などを納めた立方体の筐体(きょうたい)を組み付ける外枠である構体の開発・製造に取り組む。構体は10センチメートル角を基本に、必要な数を配置できるように作る。素材はアルミニウム。マシニングセンター(MC)で削り出す一体構造とし、高強度が強みだ。
宇宙事業参入のきっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大だった。14年から航空産業に参入していた同社は、エンジンや機体の部品を製造していた。コロナ禍の影響で航空機需要が激減し、同時に注文も低迷。取得していた航空宇宙産業の品質管理規格の維持に悩んだ結果、新規事業として宇宙産業への挑戦を決断した。
初めは宇宙産業への理解を深めるところからスタート。具体的に取り組む分野を探る中で、20年末に研究機関でキューブサットの構体と出会った。菊池正宏常務は「自社で加工できそうな部品に、想像の数十倍の金額が動いていた。高付加価値品の可能性を見た」と振り返る。
宇宙産業は投資額が大きく、高い信頼性が求められる。そのため高額でも実績のある海外製品に頼らざるを得ないことも多い。当初は専門家などへのヒアリングや展示会への参加など、地道な営業活動から始めた。
「加工だけでは価格競争にのまれる。モノづくり企業が持つ強みを生かす必要を感じた」と菊池常務は説明する。特に人工衛星そのものを販売・打ち上げる企業は、生産設備を持たないファブレスの場合も多い。調達部品の組み合わせで構体に設計変更が起き、ロケットへの搭載が延期されるなどのトラブルがあるという。菊池常務は「人工衛星全体の設計から菊池精機が関われば、相互に利点があると考えた」と振り返る。その後も、大学と連携した人工衛星開発や海外展示会への参加を通じ知見を深めた。
8月にウェブサイトで、6種類のキューブサット用構体の販売を開始。10月の初受注にこぎ着けた。菊池常務は「将来は1人1台人工衛星を持つ時代が来る」とし、2050年で年間120万機の生産を掲げるなど夢を広げる。
本社がある茨城県日立市は、日立製作所の企業城下町として有名だ。一方で事業再編による相次ぐ生産拠点の閉鎖などから、地域経済への影響が懸念されている。「技術を持つモノづくり企業が多い街。日立市などの茨城県県北地域を“人工衛星製造の街”にしたい」と熱を込める。