スマホ「AQUOS」でアジア開拓、シャープは存在感を示せるか
シンガポールで本格販売 収益拡大、AI機能カギ
シャープは「AQUOS(アクオス)」ブランドのスマートフォンでアジア市場を開拓する。台湾やインドネシアに加えて、2024年からシンガポールでも本格的な販売を始めた。「27年ごろにはある程度の海外売上高を示したい」(通信事業本部の中江優晃パーソナル通信事業部長)方針だ。生成人工知能(AI)を活用したソフトウエアの高機能化で競合との競争が激化する中、一定の存在感を示せるかが問われる。(大阪・森下晃行)
「シャープのブランドや、日本製品であることをシンガポールの消費者は好意的に捉えている。量販店にも『アクオスコーナー』がある」。シャープの中江パーソナル通信事業部長は、足元の状況をこのように説明する。
同社は24年夏モデルの「アクオスR9」「アクオスwish4」を台湾やシンガポールなどで発売した。足元の海外売り上げは明らかにしていないが「引き合いは多い」(中江パーソナル通信事業部長)。特にシンガポールはアジア市場への影響力が大きく「存在感が非常に重要。ブランディングの効果も高い」(同)と注力する。
23年は国内企業のスマホ事業の縮小・撤退発表が相次いだ。シャープは消費者向けを手がける数少ないメーカーの一つ。親会社の台湾・鴻海精密工業の協力により一定の価格競争力を発揮できるものの、国内市場が「長期的に伸びていくとは考えにくい」(同)。伸びしろのあるアジア市場に目をつけるのは当然の流れといえる。
ただ、アジア市場でどこまで売り上げを伸ばせるか見通すのは難しい。シャープのスマホは液晶で培ったディスプレー技術や独ライカとの協業によるカメラを強みとするが、中・高価格帯の製品を展開する競合は、生成AIによるソフトの機能強化にしのぎを削っているからだ。
例えば米アップルは生成AIによる文章や画像の生成機能などを訴求する。一方シャープは、留守番電話をAIが要約する機能を打ち出す。「アジア市場でも一定のニーズがある」(同社)として、日本語だけでなく英語や中国語にも対応するが、競合をしのぐ魅力になり得るか。今後の新製品も、AI機能の強化が焦点の一つになりそうだ。
シャープは27年度に白物家電など「ブランド事業」の営業利益率7%を達成するという目標を掲げる。ただ、スマホを含む「ユニバーサルネットワーク事業」が単独でこの目標に達するのは「非常に難しい」と沖津雅浩社長は見通しを示した。
液晶パネルなどの部材関連を縮小・撤退しブランド事業に注力するシャープにとって、消費者に広く知られるスマホ事業の重要性は高い。すぐ手を引くとは考えにくいが、海外開拓を通じて同事業の収益全体を押し上げられるかが課題になる。
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