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生物多様性COP16開幕、医薬品・化粧品・食品メーカーが注目すべき理由

生物多様性COP16開幕、医薬品・化粧品・食品メーカーが注目すべき理由

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遺伝子情報活用製品、対価ルール合意目指す

生物多様性条約第16回締約国会議(COP16)が21日、コロンビアで始まる。2022年末のCOP15で合意された世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組み(GBF)」を実行に移すための重要な会議となる。途上国を支援する資金問題が争点だ。また、生物の遺伝子情報を活用して商品を開発した企業が対価を支払うルールの合意も目指す。医薬品や化粧品、食品メーカーにとっては大きな注目点だ。(編集委員・松木喬)

COP16はコロンビアで3番目に人口が多い都市・カリが会場だ。現地でのビジネス関連イベントに参加する企業関係者に聞くと、日本から乗り換えを含めて飛行機で30時間かかるという。

GBFは、自然を回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」の実現を目指している。交渉に詳しい国際自然保護連合日本委員会の道家哲平事務局長は「国際社会はGBFを実行に移すことで合意している。COP16は実行手段を話し合う重要な会議」と解説する。

COP16の交渉での焦点が資金問題だ。主に途上国が環境保全の援助を求め、消極的な先進国と対立する構図は他の国際交渉と同じ。GBFでは年2000億ドルの資金動員が決まっている。気候変動枠組み条約でも09年、年1000億ドルの資金動員の目標ができたが、22年にようやく達成できた。

生物多様性はより高い目標を設定したが、「途上国は政府資金の拠出を求めているが、先進国は民間資金も含める考えを示している」(道家事務局長)と意見に開きがある。

資金に関連し、デジタル化された遺伝子情報(DSI)を活用して薬品や化粧品を開発した企業が対価を支払うルールも、交渉のポイントだ。植物にヒントを得て多くの薬品や化粧品などが開発されている。その植物は途上国に存在することが多く、開発に成功した先進国の企業だけが利益を得ることが不公平とされてきた。そこで遺伝資源を利用して商品を開発した企業が途上国に対価を支払う「ABS」の仕組みが提唱され、10年採択の名古屋議定書で国際ルール化された。

前回のCOP15でDSIについても交渉することに合意した。ただ、収益の何%にするのか、支払いは義務なのか任意なのかなど争点は多い。日本政府はデータベース情報はABSの対象外としてきたので、義務的な支払いに慎重だ。

また、COP16では指標も議論のポイントとなる。GBFは23の個別目標があり、それぞれの進捗(しんちょく)を評価するために指標が必要。目標3は「陸と海の30%を保全地域にする」ことが掲げられているので、面積を指標として各国の国土の30%をゴールにできる。ただ、指標を設定しやすい目標ばかりではないので、自国を有利にするための駆け引きがありそうだ。

COP15以降、日本の産業界で生物多様性向上への機運が高まった。今回のCOP16でも、企業の意欲をさらに高める合意を期待したい。

自然再生へ日本経済界動く

出典:日刊工業新聞 2024年10月18日

生物多様性条約第16回締約国会議(COP16)が21日、コロンビアで幕を開ける。2022年末のCOP15では「昆明・モントリオール生物多様性枠組み(GBF)」が採択され、30年までに自然を回復軌道に乗せる“ネイチャーポジティブ”が世界目標に決まった。COP15以降、日本の経済界でも生物多様性保全の機運が急速に高まっている。(編集委員・松木喬)

GBFは23の目標を設定した。陸と海の30%を生物多様性保全地域にする「目標3」、企業に自然と事業との関連の情報開示を求める「目標15」は、経済界で注目された。

これに伴い、政策も打ち出された。政府は23年、陸の30%を保全するため、生物多様性が守られている緑地を認定する「自然共生サイト」を制度化し、これまでに253件を認定している。

また、国際組織「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」も23年9月、開示内容を整理した枠組み(フレームワーク)を公表した。

すでに日本の125社が早期に情報を開示すると表明。国別で最多であり、日本企業が生物多様性の課題解決に積極的に取り組む姿勢がうかがえる。

インタビュー;矢継ぎ早の政策、行動促す/経団連自然保護協議会会長・西沢敬二氏

COP15以降の生物多様性をめぐる変化を経団連自然保護協議会の西沢敬二会長(損害保険ジャパン顧問)に聞いた。経済界では急速に関心が高まっており、経団連は過去最大となる25社45人をCOP16に派遣し、情報収集や日本の取り組みを発信する。

―COP15以降、生物多様性を取り巻く状況は変わりましたか。
 「政府は生物多様性国家戦略を閣議決定し、自然共生サイトを制度化した。『ネイチャーポジティブ経済移行戦略』も公表し、生物多様性増進活動促進法を成立させた。矢継ぎ早の政策によって機運が高まった」

―経済界の変化は。
 「自然共生サイトは253件が認定されている。23年度末までの認定184件のうち、4割以上が経団連会員だ。TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みに従って125社が早期の開示を宣言している。国別で最多であり、情報開示で間違いなく日本が世界をリードしている。経営者同士の会話でもネイチャーポジティブの言葉が使われるようになった」

―海外の動向は。
 「欧州で『サスティナビリティー規制』が次々に打ち出されている。産業界からの懸念で当初よりも規制が緩和されることもあるが、現地の経済団体や経営者と対話していると規制強化への対応に前向きな意見が多い。将来の競争力や企業価値向上につながると考えているからだ。日本政府は規制よりも企業の自主性を重視し、民間の取り組みを後押ししてもらっている」

―経済界から見たCOP16の注目点は。
 「主要テーマは3点。1点目は、GBFの進捗(しんちょく)や達成を評価する指標だ。世界で統一性が求められるが、計測が容易で分かりやすい指標を決めてほしい。2点目は途上国支援などの資金問題。3点目はデジタル化された遺伝子情報(DSI)を活用して薬品や化粧品を開発した企業が対価を支払う利益配分の方法だ。企業による資金拠出は義務ではなく、任意であるべきだ。何よりもイノベーションを妨げてはいけない」

―国内でネイチャーポジティブに向けた機運を継続させるには。
 「地球環境や生物多様性への危機感を、国民全体の理解と行動変容につなげること。そのために政府や自治体による啓発活動の拡大が必要だ。また政府には、自然再生に取り組む企業への税制や補助金によるインセンティブをお願いしたい。メリットがあれば、さらなる行動が促される。適切に評価される環境整備も重要だ。また私自身、地方を訪ねると自然保護活動の担い手不足が悩みだと聞く。担い手の創出も課題だ」

―経団連としての取り組みは。
 「自然保護基金の運用を見直し、GBF達成に貢献する活動を支援するように改定した。経団連の生物多様性宣言イニシアティブへの賛同企業もCOP15前から90社増えて351社となった。取り組みの公表も55社増加して192社となった」

日刊工業新聞 2024年10月18日

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