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時価総額約7000億円…「東京メトロ」上場、今後の成長どう描くか

時価総額約7000億円…「東京メトロ」上場、今後の成長どう描くか

首都圏の私鉄では輸送人員、旅客収入とも最大となる東京メトロ(丸ノ内線)

東京メトロが23日、東証プライム市場に上場する。事前に投資家の需要をまとめるブックビルディング(需要申告)での旺盛な引き合いで売り出し価格は1200円に引き上がり、上場時の時価総額は約7000億円。新規株式上場(IPO)としては、2018年に上場したソフトバンク以来の大型案件となる。都心を貫く収益力の高いドル箱路線を抱え、首都圏の私鉄では輸送人員、旅客収入も最大の東京メトロ。その企業価値や収益性には市場の期待も高い。(高屋優理)

経営の意思決定、裁量増す 不動産事業を強化

IPOとしては18年のソフトバンク以来の大型案件となる(東京メトロ本社)

東京メトロの発行済み株式は国が53・4%、東京都が46・6%を保有しており、上場に伴い、それぞれ保有株式の2分の1ずつを売却する。上場後の国と東京都を合わせた保有比率は50%となる。東京メトロは当初の売り出しの想定価格を1株当たり1100円と見込んでいた。だが、仮条件の設定を経て旺盛な引き合いがあったことで、売り出し価格は1200円に引き上がった。売却益は国が約1900億円、都が約1600億円になるとみられる。

売却益については、国が東日本大震災の復興財源確保法で、27年度までに確保した東京メトロ株の売却収入を復興債の償還費用に充てると規定していることから、使途は決まっている。一方、東京都は現時点で使途が未定で、小池百合子東京都知事は「今後検討する」と述べるにとどめている。

市場の東京メトロへの期待の根拠はその収益力だ。東京メトロの24年3月期の輸送人員は23億8473万人と、2位の東急電鉄の10億5214万人に比べ2倍以上となる。また路線の収益力でも、22年度の1日1キロメートル平均の旅客収入が約395万円と私鉄ではトップだ。2位の東急の約313万円と約80万円の開きがあり、その収益力の高さが数字に表れている。

IPOは株式の売却益を成長投資に振り向けるのが定石。だが今回の東京メトロの上場では、新株を発行しないため、既存株主である国と東京都が売却益を得るのみ。東京メトロには売却益は入らない。上場時期についても山村明義社長は従来から「国と都が考えること」と、明言を避けていた。

東京メトロにとっての上場のメリットは経営の自由度が広がることだ。従来は事業方針を国と東京都に諮っていたが、意思決定の裁量が増す。上場企業となった東京メトロがまず解決すべき経営課題の一つが、鉄道事業の依存度の高さだ。営業収益における旅客収入の比率が約90%を占める。この一本足打法を打開すべく、山村社長は「不動産事業を強化する」とし、他の鉄道事業者と同じく、不動産開発など非鉄道事業に注力する方針を示す。東京メトロは4月に不動産アセットマネジメント事業への参入に向け資産運用会社を設立し、不動産事業拡大に先鞭を付けた。将来は1000億円規模の運用を目指す。

有楽町線・南北線延伸など、臨海部のアクセス向上

東京メトロは04年の設立時に国と東京都が早期に株式を売却する方針が示され、完全民営化が既定路線となっていた。だが、東京都が石原慎太郎元東京都知事時代に都営地下鉄との一元化を視野に売却を渋り、国の保有分も買い取る姿勢を打ち出したことで、上場までは複雑な経緯をたどった。当初の東京メトロの想定からは約20年遅れての上場となる。

東京メトロは収益性の低い都営地下鉄4路線との一元化による企業価値の低下を懸念し、一貫して東京都の構想を拒否。その後、知事が交代しても東京都と東京メトロのにらみ合いが続いていた。しかし、21年7月に国の交通政策審議会が有楽町線や南北線の延伸を早期に事業化すべきとし、その上で、東京メトロが延伸の整備主体となり、事業費の負担や用地取得は国と東京都の公的支援が必要とした。このため、国と東京都が東京メトロの株式を50%を保有し続ける方針が示され、上場の道筋がつけられた。

2路線の延伸は東京都が5月の都市計画審議会で有楽町線の豊洲(江東区)―住吉(同)間、南北線の白金高輪(港区)―品川(同)間について都市計画を承認、事業が大きく前進した。有楽町線延伸の総事業費は約2690億円、南北線の総事業費は約1310億円を見込む。東京メトロは東京都の承認を受け、30年代半ばの開業を目標に1年以内の着工を目指す。

東京都はこのほかに、都心と羽田空港(大田区)を結ぶ羽田アクセス線、東京駅から東京ビッグサイト(江東区)を結ぶ新線の計画がある。この計画はいずれも臨海部のアクセス向上につなげるものだ。路線網の拡充には利便性向上の観点から他路線との直通運転や駅間の接続も前提となるため、東京メトロをはじめとした鉄道事業者との連携が必須となる。こうした計画を踏まえ、東京都は株主として東京メトロへの影響力を維持していく。

23日のIPOは設立時に目されていた、国と東京都が全株式を売却する「完全民営化」とは異なった形式になる。だが、上場すれば東京メトロは国や東京都だけでなく、投資家も意識しなければならない。設立の経緯や首都の交通網を支える事業構造上、国や東京都とのしがらみをなかなか絶てない中、東京メトロが上場企業として、独自の取り組みを打ち出し、どのような成長を描くのか、市場から厳しい視線が注がれることになる。

日刊工業新聞 2024年10月22日

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