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<防災最前線#08>キユーピー、生産状況の情報を一元管理

東日本大震災を受けて、各社はどう対応したのか
<防災最前線#08>キユーピー、生産状況の情報を一元管理

首都圏の地震を想定し関西でのバックアップオフィス訓練を定期的に実施

 食品メーカーには、商品を客先に滞りなく届ける“供給責任”がつきまとう。この供給責任が何らかの理由で果たせなくなったとき、メーカーが信頼を失うのはもちろん、客側も食の供給が途絶えることで生命に関連する重大事になる。そのことをいみじくも痛感させたのが、2011年3月に起きた東日本大震災。キユーピーで、有事での生産状況確認システムを担当した渡辺龍太執行役員は「震災経験が一つのターニングポイントになった」と回想する。

備品が盲点


 青森県内にある、キユーピー八戸工場。震災で電力やガス、水道などのインフラが一時ストップしたほか、製品倉庫にある商品がことごとく落下するなどの被害を受けた。

 同工場はマヨネーズのほか、業務用調理ソースや肉加工ソースなどを生産する。マヨネーズは周辺工場で何とか代替できるが、他の商品供給責任をどうするか。工場が復旧しても、原材料の食塩やでんぷん、畜肉などをどのように調達確保するかの問題があった。

 「震災直前は生産効率化のため、無駄な在庫を一切持たずに必要量だけを生産し、届けるのが最良と言われていましたから」と渡辺執行役員は振り返る。業務用の客先からは、商品供給を早くしてくれと催促が来る。一口に商品と言っても種類や数は膨大だ。どの商品が何個必要で、それにかかる原料や包装材はどのくらいなのか。震災後はその処理に追われた。

 意外だったのは食品の製造年月日を印字するインクや、工場従業員のマスクなど備品が不足したことだったという。原材料や包装材の調達に頭が回っても、備品の確保は盲点だ。

 これらの経験も生かし、有事の際に情報を一元化し、スピーディーに判断するためのツールとして、生産状況確認システムを構築。自社ラインの被害状況や在庫・受注状況はもちろん、資材メーカーの被害状況や供給状況などをネット上で確認できるようにした。

アナログ対応


 システムはネットへの数字入力や自動計算だけでなく、あえてアナログ感を残したのもポイント。画面数字だけを見て情報が一人歩きしてしまうのを防ぐため、入力の際は担当者同士が電話の会話などで現場状況を詳しく確認、その上で入力するようにした。「入力作業に時間がかかるが、この方が有効」と渡辺執行役員は強調する。

 システムを使って、実際に生産停止や再開の訓練を行い、首都圏の地震で本社が被害を受けたときなども想定し、関西のバックアップオフィスで指揮をとる訓練も定期的に実施している。震災経験を踏まえ、資材の2カ所購入を始めたほか、一部商品の製造2拠点化も進めた。

 「おかゆやベビーフード、高齢者食などの商品はまさに食のインフラ。震災が起きたからと供給が滞ることは許されない」。渡辺執行役員は力強く語る。卵黄マヨネーズや深煎(い)りごまドレッシングなど、基幹商品で安定供給を図るのはもちろんだ。

 供給責任が果たせなかったため、売り場や棚を他社に奪われたメーカーもある。供給を果たすことは、自社の安全にもつながる。
(文・嶋田歩)
日刊工業新聞2016年2月22日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
食品メーカーは産業界の中でも地震対応がかなり進んでいると思う。

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