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旭化成は10万キロ級アルカリ水電解装置狙う…水素供給網プロ始動、国際連携で利活用拡大

旭化成は10万キロ級アルカリ水電解装置狙う…水素供給網プロ始動、国際連携で利活用拡大

旭化成は日揮と共同でグリーンアンモニア実証プラントを建設中

国際連携で水素や水素キャリアの生産・供給、グリーンケミカルとして調達するサプライチェーン(供給網)プロジェクトが動き出している。旭化成は日揮と連携し、海外でアルカリ水電解装置を使って水素を大量製造するグリーンケミカルプラントの第1号の実用化に乗り出す。ENEOSは水素キャリアとして期待されるメチルシクロヘキサン(MCH)を低コストで合成する技術「ダイレクトMCH」をベースに、2030年にもグローバルな供給網の構築を目指している。(いわき・駒橋徐)

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旭化成/10万キロ級アルカリ水電解装置狙う

旭化成は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R、福島県浪江町)で実証する大型のアルカリ水電解装置の統合制御システムと、同社川崎製造所(川崎市川崎区)に今春完成した4基の統合実証運転技術を活用。マレーシアのケミカルプラントで実用化を検討する。同プロジェクトを第1弾に、複数企業と組んで水素エネルギー利活用事業をグローバル展開する構えだ。

FH2Rではイオン交換膜を使用して食塩水を電気分解する「イオン交換膜法食塩電解技術」を、水電解技術に応用した世界最大級のアルカリ水電解装置の実証を20年から開始。耐久性が高く大型化しやすいのが特徴で、再生可能エネルギー由来の電力により出力が変動しやすい再生エネへの対応や大型化、性能向上、低コストでの運用といった技術ノウハウを得てきた。

24年中には同装置で生成した水素を用いてグリーンアンモニアを合成する実証プラントを、日揮と共同でFH2Rに隣接して完成させる予定。水素とアンモニアの生成を統合制御するシステムとして26年度までに運転する計画だ。

旭化成は出力10万キロワット級のアルカリ水電解装置の実現を目指し、FH2Rの出力1万キロワットの装置10基程度を連携していく方針。このため、川崎製造所に設置した4基のユニット(1ユニットの出力は8000キロワット)を連携・最適運転し、再生エネの電力変動に強い運転技術の実証を進めている。

プラントのグリーン化、マレーシアで導入

こうしたFH2Rにおけるノウハウや、川崎製造所で実証中の複数モジュールの最適運転技術をもとに目指すのが、マレーシアにおけるグリーンケミカルの実用プラントの具体化だ。国のグリーンイノベーション基金事業のフェーズ2プロジェクトとして、マレーシア国営石油会社のペトロナス子会社であるジェンタリ向けに既存のケミカルプラントをグリーン化する事業として導入する。再生エネ由来の電力を使い、アルカリ水電解の出力規模は合計6万キロワット。27年の実証運転開始を目指す。

旭化成グリーンソリューションプロジェクト長の竹中克上席執行役員は「グリーンケミカルは海外で既設プラントのグリーン化を含めてニーズが高まっている。アルカリ水電解技術を進化させ、電力、鉄鋼などへグリーン水素を大規模供給するエネルギー事業も強化する」としている。

ENEOS/水素キャリア合成、低コスト化

水素の利活用拡大に向けて期待されているのが水素キャリアのMCH。水素とトルエンを合成した常温・常圧の液体で、石油タンカーなどで運搬でき、石油製品関連の施設を転用して利用できる。ENEOSはMCHへの変換プロセスを従来に比べて大幅に簡略化した低コスト型の有機ハイドライド電解合成法、ダイレクトMCHによる国際的な供給網構築を進める。

従来の水素からMCHへの変換プロセスでは、水電解で製造した水素をタンクへ貯蔵した上で、トルエンと合成する製造プラントが必要だった。これに対してダイレクトMCHは水電解装置の電解槽で直接、トルエンと水素からMCHを生成する。これにより水素タンクやMCH製造プラントなどが不要で、製造プロセスを簡素化してコストを大幅に削減可能。ENEOSが持つ固体高分子型燃料電池の技術を応用し実現した。

出力ギガ級電解槽を30年運用

ブルネイでの従来型MCH製造プラント(千代田化工製)

23年には中型電解槽での実証をを豪州ブリスベン(クイーンズランド州)で実施。3平方メートルの電極を積層した電解槽で、出力150キロワットの水電解装置により水素相当で1時間あたり30立方メートルのMCHを合成。8カ月間運転した。この実証を踏まえ、25年に実用規模の出力メガワット級(メガは100万)の大型電解槽を開発し、30年にも出力ギガワット級(ギガは10億)で水素を年間1万トン供給するMCHプラント(MCHの量は年産17万トン)となる。同プラントにおける製造コストは、従来の製造法に比べ50%程度設備コストが低減すると見込む。

MCHから脱水素する装置(千代田化工製)

MCHの国際供給網では千代田化工建設がブルネイで従来工法によりMCHを製造し、川崎市に船で輸送。MCHから水素を取り出して発電所で利用する世界初の実証事業が20年に終了するなど実用化への機運が高まっている。ENEOS水素事業推進部の中川幸次郎水素サプライチェーン企画グループマネージャーは「国際サプライチェーンは豪州や中東、マレーシアなど東南アジアなどが候補。MCH製造では従来の製造法と合わせ、段階的にダイレクトMCH合成法にシフトしていく」とする。MCHからの脱水素は国内外の企業が持つ高い技術力を活用。脱水素したトルエンは、MCH製造原料として循環させる。実用化の段階では海外で製造したMCHを国内の製油所基地で受け入れる方向。川崎(川崎市川崎区)、堺(堺市)、水島(岡山県倉敷市)の製油所などでクリーン水素の受け入れ、貯蔵、供給を検討する。

同社がダイレクトMCHの国際供給網を具体化を目指す30年ごろには、出光興産、北海道電力と共同で、北海道苫小牧市に再生エネを活用した水素を地産地消する国内最大規模の事業も検討している。出力10万キロワット規模の水電解装置を建設して年1万トンのグリーン水素を製造。地下パイプラインで地域の工場に供給する水素の供給網構築を進める。


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日刊工業新聞 2024年10月14日

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