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障がいに合わせ機器試作…「誰にもやさしい倉庫」実現へ、日通の挑戦が始まった

障がいに合わせ機器試作…「誰にもやさしい倉庫」実現へ、日通の挑戦が始まった

WHILLと共同開発した試作機。カゴ(写真手前)を手に持たなくていいため、両手でピッキングできる

日本通運は歩行や視覚、聴覚などに障がいがある人、外国人、高齢者などが働く際の障壁を取り除いた「誰にもやさしい倉庫」の実現に取り組む。人手不足が深刻化する中、障がいがある人や高齢者は未開拓の労働市場だ。海外などでは完全自動倉庫を目指す動きもあるが、多様な荷物に柔軟に対応するには人の手が欠かせない。これから倉庫はどう変わるのか。挑戦が始まった。(梶原洵子)

障がいがある人で、倉庫で働きたいと思う人は多い。障がいがある当事者の意見を反映してユニバーサルデザイン企画などを行うミライロ(大阪市淀川区)が当事者600人にアンケートした結果、働きたい人は32%おり、理想的な環境や条件が整えば働きたい人は54%に増えた。「作業環境と職場のマインドセットがそろえば働いてもらえる」と事業開発部の石井邦和次長は力を込める。

そこで、日通は操作性の良い電動車いすを開発するWHILL(東京都品川区)、ミライロと協力し、まず歩行が困難な人がWHILLの「モデルC2」でピッキング作業を行う仕組みを開発した。ピッキングした荷物を作業者が手に持つカゴか自動追従ロボットのカゴに入れ、倉庫内に複数箇所あるステーションに運び、そこから自律搬送ロボが出荷エリアに運ぶ。

体にフィットした自分の車いすを使いたい場合も、手にカゴを持てなくても追従ロボを使って運べる。

2025年度以降、年3倉庫程度への水平展開を目指す。「モデル倉庫の平均歩数は1日2万歩。今働く人にも優しくできる可能性がある」(同部の山田悟専任部長)という。

さらに日通はWHILLと共同で、倉庫作業専用モビリティーの試作機を開発した。作業しやすい位置に固定できるカゴ置き場や、高い棚に手を伸ばせる座面の昇降機能を設けた。主要なタイヤを従来の4本から左右2本に減らし、狭い通路でも方向転換できるようにした。今後、倉庫で試験利用し、両社で製品化を目指す。工場や商業施設など倉庫以外での活用も期待できる。

聴覚や視覚に障がいがある人が働く時に必要な機器の調査も開始した。障がいがある人に倉庫作業を見学してもらったところ、「視覚に障がいがある人から『空間を把握する能力が高いので、荷物をさわってぴったりの箱を選ぶことができる』と言われた」(石井次長)という。当事者の声を聞くことで、働く可能性を広げられそうだ。

各障がいへの対応を集めた“集大成”となるのが高齢者向けの対策だ。年をとれば、足や目、耳、腰などが少しずつ弱る。働くことへの考え方は人それぞれだが、「働きたい人が当たり前に働ける環境を整備したい」と山田専任部長は話す。労働市場としても大きい。さらに遠隔操作フォークリフトや遠隔操作ロボの研究も進めている。

人手不足が深刻化する一方、電子商取引(EC)需要などで荷物は増加している。物流を支える倉庫での新しい働き方が求められている。

日刊工業新聞 2024年09月18日

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