長寿企業の持続可能な経営モデル「私たちは生かされている」
100年経営の会(事務局 日刊工業新聞社)は長寿企業イノベーション勉強会を開催、100年企業顕彰で経済産業大臣賞を受賞した坂口電熱(東京都千代田区)と、新川電機(広島市中区)の社長らが「モノづくり企業に学ぶ持続可能な経営モデル」の秘訣を披露した。
坂口電熱社長 蜂谷 真弓氏
2023年に創業100周年を迎えた。創業者・坂口太一の精神である「私たちは生かされている」ということ、そして企業経営はその社会恩に報いるものであるということが、経営の根幹となっている。これを具体的に明文化したのが1976年に制定した社是だ。「聖賢の教学に則り社業を通して国家社会の進化発展と人類の安心平和幸福の実現に貢献せん事を念願とする」というもの。聖人・賢人が説いてきた人としてのあり方に則り、世のため人のために役に立とうという考え方で、社業である電熱技術を持って、あらゆる産業分野やお客さまの発展に貢献する。社員は毎朝唱和している。
私が経営を継いで間もなくリーマン・ショックがあった。坂口電熱の存在意義は何か、自問自答する時間を得た。まず決意したのは雇用を守ること。ものごとを動かしていくのは人の心の力に他ならないからだ。一世代前の先輩社員が刻んでくれた実績を次世代に繋ぐためにも、創業者精神という価値観の共有は大きく役立つ。そして技術や実績を全社で共有する研修の場も毎年設けている。似たような案件に携わった人に解決の糸口としてアドバイスを求めたり、協力体制ができることは、安心して働く風土の一端だ。
今後の抱負としては、まず環境に配慮した製品開発を続けて、お客さまの脱炭素戦略に貢献していくこと。これは地球に暮らす一員として待ったなしの優先事項だ。そしてお客さまにとってなくてはならない唯一無二の存在であり続けること。さらに社員一人一人が人としての成長を実感できて、お互いの成長を喜び合える企業風土を育み続けることだ。社業を通じて、国家、社会の進化、発展に貢献していきたい。
新川電機社長 新川 文登氏
当社は創業1927年で、100年まであと3年だ。多くの100年企業の皆さまを前に話すチャンスをいただいた。新しい価値の創造を通じて社会に貢献する、というのが企業理念であり、トータルエンジニアリング企業として歩んできた。祖父・新川浪登が商店を創業し、電気部材などを扱っていたが、これからは計測と制御の時代だと考え、多くのメーカーと代理店契約を結んだ。その後、別の仕事をしていた5人の息子たちを呼び戻し、力を合わせるよう説いた。
技術商社だが、輸入品に頼っていたセンサーを自社で開発するなどさまざまなものを作ってきた。そして1994年にモノづくりの会社として新川センサテクノロジ(東京都千代田区)を設立した。また、海外にも販売をしていこうと、米国、シンガポール、上海などに拠点を作った。2003年には国内初の無線振動センサーを開発した。宇宙ロケットやリニアモーターカー、発電所タービンに用いるセンサーなども開発している。さらにこれからの水素エネルギーに向けたセンサーも販売している。
センサーによって取得した工場での一つ一つのデータをつなぎ、設備の状態や故障の予知・予防をするビジネスも展開している。新川電機と新川センサテクノロジが共同で、これからのDX(デジタル変革)の時代に向け、スマートファクトリー、スマート保安といった形で、お客さまに新たな価値を提供する。そのために社員一人一人が必ず持っていなければならないのが、新しい価値の創造で社会に貢献しようという企業理念だ。DX時代の社会に貢献するため、小学校、中学校向けにモノづくりを学ぶワークショップ講座も提供している。