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売上高2倍1.1兆円へ…三菱電機、全社横断データ連携で収益力強化狙う

売上高2倍1.1兆円へ…三菱電機、全社横断データ連携で収益力強化狙う

三菱電機のDX戦略の中核となる組織で、セレンディの推進役となる横浜のDX拠点

三菱電機がデジタル分野を強化している。5月に新たに立ち上げたデジタル基盤「Serendie(セレンディ)」を中核に、これまで各事業領域それぞれで担ってきたデータ分析や管理などを全社横断的に行うことで、競争力を高める狙いだ。時代に即した新しいソリューションを提供するだけでなく、製品開発への反映などを通じ、収益力の一段の強化を狙う。(編集委員・小川淳)

鉄道向け、運行・電力を最適化

「事業本部ごとに事業を推進しているが、それぞれがプラットフォーム(PF、基盤)を持っていた。PFが違うとデータ同士の連携ができないことが問題だと認識していた」。三菱電機の漆間啓社長は、同社のデジタル分野での課題をこう指摘する。

もともと三菱電機は「コンポーネント(製品)に強みを持ってやってきた会社」(漆間社長)で、データの分析や利活用は電力機器や工場自動化(FA)機器、ビル、鉄道など各領域にひも付いたそれぞれのPFに依存し、広がりも限定的だった。

こうした現状を変えるため、2022年から顧客データを集約・分析して新しいソリューションや製品を生み出す「循環型デジタル・エンジニアリング企業」への変革を打ち出し始めた。

また、これを実現するための体制として、関係性の深い複数の事業本部を束ねた「ビジネスエリア(BA)」制度を導入。事業本部中心の縦割りを打破し、統合ソリューションを生み出そうとしている。現在はFAシステムや自動車機器を担当する「インダストリー・モビリティ」など四つのBAが存在しており、データ連携を進めやすい土壌が整いつつある。

デジタル基盤のセレンディは三菱電機が実現を目指す循環型デジタル・エンジニアリング企業の要と位置付けられる。それぞれの領域の製品やシステム、サービスから得た膨大なデータをデジタル空間上に集約・分析することで、新しい製品やサービスを生み出していく。

7月からはセレンディを活用した具体的なデータ分析として、鉄道向けサービスを始めた。車両や発電所、駅設備などから収集したデータを統合・蓄積し、運行と電力使用の最適化を実現していく。

三菱電機では、30年度にセレンディ関連事業の売上高を現在の約2倍になる1兆1000億円にする目標を掲げる。このうち6割をソリューション関連とする方針だが、現在は製品関連が7割を占めており、30年度までにこの割合を逆転させる。ソリューションの割合が高まれば利益率の向上が見込め、営業利益率は現在より7ポイント高い23%まで拡大する。最高デジタル責任者(CDO)を務める武田聡取締役は「この割合は保守的に見ている。ソリューションが我々の計画通りに伸びればもっと収益性が上がる」と強調する。

リスキリング・M&A、DX人材確保

三菱電機は23年4月に横浜市内でDXイノベーションセンターを開設した。同社のDX戦略の中核となる組織で、セレンディの推進役だ。DX戦略に沿って、各領域からのデータの分析基盤、ウェブ応用プログラムインターフェース(API)連携基盤など四つの基盤を社外パートナーの協力を得ながら構築していく。

さらに横浜には約500人のDXの中核人材を25年1月までに集結させるほか、30年度までにリスキリングやM&A(合併・買収)により三菱電機グループ全体で現在の約3倍となる2万人のDX人材を確保する。

総合電機業界ではDXを積極的に推進するため、IT企業の巨額買収が相次ぐ。デジタルソリューションで業界をリードする日立製作所は、21年に米IT大手のグローバルロジックを当時の為替レートで約1兆円で買収した。パナソニックホールディングスも、同年に米ソフトウエア企業のブルーヨンダーを買収している。

これに対し、武田取締役は「買収は当然検討していくが、当社は引き続き製品側も極めて重要だ。バランスよく進めていく」と巨額の買収には慎重な姿勢を示す。

また、顧客からのデータ提供や共創など、セレンディを中核とする“仲間作り”も課題となる。DXイノベーションセンター長を務める朝日宣雄執行役員は「当社は業界トップシェアの製品が多い。強い製品があると、相談される機会も多い。顧客とのコラボレーションも進めやすくなるはずだ」と期待している。


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日刊工業新聞 2024年09月10日

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