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東大VB・アスエネ…気候テックが大型資金の調達に相次ぎ成功した要因

東大VB・アスエネ…気候テックが大型資金の調達に相次ぎ成功した要因

金融機関からの出資を受けやすくなってきた(イメージ)

気候変動問題の解決に取り組む新興企業「気候テック」が、大型の資金調達に相次いで成功した。デジタルグリッド(東京都港区)は、みずほ銀行三井住友銀行などと総額106億円の借入枠を確保する契約を結んだ。再生可能エネルギー由来電気の取引量拡大に伴う運転資金に充てる。温室効果ガス(GHG)排出量の算定サービスを企業に提供するアスエネ(東京都港区)も今夏、50億円を獲得した。市場で気候変動対策の優先度が高まり、新興企業も資金を調達しやすい環境になりつつある。(編集委員・松木喬)

デジタルグリッドはみずほ銀行がまとめ役となり、りそな銀行と大光銀行も参加する協調融資団と最大56億円の借入枠を設定した。また三井住友銀行、商工組合中央金庫、福岡銀行とは総額50億円の借入枠を確保した。

デジタルグリッドは2017年に東京大学発企業として設立。デジタル技術を活用して企業と発電事業者が取引できるプラットフォーム(基盤)を運用しており、ソニーグループリコーなどが再生エネ由来電気の調達に活用している。他社も含め3000拠点が参加する中で取引量が拡大しており、デジタルグリッドは一時的な立て替え資金の増加に備えて資金を確保した。

アスエネは6―8月、総額50億円の調達に成功した。三井住友銀行や村田製作所、リコー、KDDI、JERA、日本生命保険など20社以上が第三者割当増資などに応じた。人材獲得や人工知能(AI)の開発、海外展開に資金を活用する。

またShizenConnect(東京都中央区)は7月、業務提携した8社と親会社の自然電力(福岡市中央区)から総額8億6000万円の調達を決めた。提携した北海道電力や北陸電力、四国電力、東京ガスなどとは、給湯器や電気自動車(EV)を活用して電力需給を調整する仮想発電所(VPP)事業で連携する。

自然電力も22年、カナダの機関投資家であるケベック州貯蓄投資公庫(CDPQ)から最大700億円の資金調達に合意した実績がある。自然電力は国内外で再生エネ発電所の開発を進めており、米IT大手のマイクロソフトやグーグル向けの太陽光発電所も手がける。また、1月には自然電力が商用EV事業を展開する新興企業、eMotion Fleet(東京都新宿区)に出資した。

コーポレート・ベンチャー・キャピタルの運用や新興企業への投資枠を持つ大企業が増えており、気候テックも出資を受けやすくなっている。政府も後押しており、経済産業省は24年度のグリーン・トランスフォーメーション(GX)関連予算でスタートアップ育成に410億円を計上。また環境省は22年度、民間の脱炭素事業を資金支援する官民ファンド「脱炭素化支援機構」を設立した。これまでに25社へ投融資しており、アスエネも同機構から支援を受けている。

日刊工業新聞 2024年08月29日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
海外に比べると気候テックの調達額は見劣りするかもしれません。ただ出資する企業数は多いです。コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)などで新興企業への出資枠を持つ企業が増えたからと思います。今後、1社で100億円規模を出資する日本企業の出現に期待です。もちろん気候テックの成長にも注目したいです。

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