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宝山と合弁解消・過当競争から撤退…日鉄が脱中国鮮明、世界粗鋼生産1億トン必達

宝山と合弁解消・過当競争から撤退…日鉄が脱中国鮮明、世界粗鋼生産1億トン必達

日本製鉄東日本製鉄所君津地区の生産ライン

日本製鉄が脱中国を鮮明にする。20年に及ぶ中国宝山鋼鉄との自動車用鋼板の合弁事業から撤退する。現地鉄鋼メーカーの台頭や中国の成長鈍化など事業環境の変化を踏まえ、戦略の見直しを決めた。今後は需要増が見込める米国、インド、東南アジアの3極に海外事業の軸足を置く。同日、買収を計画する米鉄鋼大手USスチールに13億ドル(約1880億円)を追加投資する計画も公表した。連結粗鋼生産能力1億トンの達成を確実にする。(下氏香菜子)

「“中国で日本同様の高品質な自動車用鋼板をユーザーに供給する”という大きな使命が終わった」。日本製鉄の森高弘副会長は宝山との合弁事業解消についてこう説明する。

日鉄が撤退するのは宝山と2004年に設立した自動車用鋼板の合弁事業、宝鋼日鉄自動車鋼板(BNA)で全保有株を宝山に売却する。BNAは日系を含めた現地の自動車メーカーに鋼板を供給してきたが、8月末の契約期間満了の2年前から今後の経営方針について協議を進めていた。日鉄は撤退後も食品缶に使うブリキなどを生産する他の合弁事業を継続するが、中国での生産能力は従来から7割減る。

日鉄と宝山の協力関係は半世紀前に始まった。日中国交正常化から6年後の78年10月、新日本製鉄(現日本製鉄)君津製鉄所(現東日本製鉄所君津地区)を訪れた中国の鄧小平副首相から、中国初の近代製鉄所の建設実現に向けた技術支援を求められたのがきっかけだ。日鉄の支援で85年に稼働した上海宝山製鉄所(現宝山鋼鉄)は日中友好の象徴と言われ、中国鉄鋼業隆盛の礎にもなった。

BNAも宝山との協力関係から生まれた事業の一つだった。宝山は日鉄から自動車用鋼板の製造技術を学び、日鉄は当時、急成長していた中国市場で鋼材需要の獲得を狙った。

中国の鄧小平副首相(当時)が来日(78年10月22-28日)。新日鉄君津製鉄所を視察した

ただ、ここ数年で中国事業を取り巻く環境は大きく変化した。一つは現地鉄鋼メーカーの台頭だ。世界鉄鋼協会によると23年の世界粗鋼生産の5割超を中国企業が占め、企業別の首位が宝山鋼鉄を傘下に置く中国宝武鋼鉄集団だ。量だけでなく技術レベルも高まり、宝山との関係は“師弟”から“ライバル”に変わった。

さらに中国では政府支援をバックに電気自動車(EV)を生産する地場メーカーが存在感を強め、日鉄の主要顧客である日系自動車メーカーが販売不振に苦しむ。日産自動車は現地で一部工場を閉鎖し、三菱自動車が事業撤退するなど中国戦略の見直しが相次いだ。米中対立を背景に知的財産を含めた中国ビジネスのリスクも高まっている。経済産業省の幹部は「鉄の過剰供給問題を見ても分かるように、中国で鉄鋼メーカー間の過当競争が続いている。投資してもこれ以上はもうからない。日鉄の判断はまっとうだ」と指摘する。

米・インド・東南アに軸足 USスチール買収へ準備着々

日鉄は人口減少に伴う内需の先細りをにらみ、今後は市場成長が期待できる米国、インド、東南アジアで海外事業を拡大する。中でも重視するのが米国市場の攻略であり、USスチールの買収だ。

米国は鉄鋼で先進国最大の市場であり人口も増加する。米中対立に伴う経済安全保障の強化を背景に、製造業の国内回帰が進むほか、長期的には電動車の普及が進み、日鉄が得意とする電磁鋼板など高付加価値品の需要が高まる。USスチール買収が実現すれば、日鉄の連結粗鋼生産能力は23年比で3割増の年8600万トン程度に増え、目標とする1億トン達成が射程圏内に入る。

買収は11月の米大統領選と絡んで政治問題化していることから、選挙終了後から年末にかけての短期間でのクロージングを目指す。現地労働者らとの対話を重ねており、買収に反対する全米鉄鋼労働組合(USW)との関係についても「改善は時間の問題」(森副会長)と手応えをつかむ。

USスチールに対してはすでに26年まで約14億ドル(約2000億円)を投資する計画を公表済みだが、29日に13億ドルの追加投資を行う計画を発表。27年以降も投資を継続する考え。

7月には米トランプ前政権で国務長官を務め、共和党・民主党双方にパイプのあるポンペオ氏を買収に関するアドバイザーに起用した。USスチールへの新たな追加投資も決め、米国事業の拡大へ不退転の覚悟で買収に臨む構えだ。

高い経済成長率を誇るインド市場も重視する。19年には欧州アルセロール・ミタル(AM)と共同で現地の鉄鋼大手、エッサール・スチールを買収した。AMとの合弁を通じ、25年から26年にかけて、インド西部で高炉2基を新たに稼働し、生産能力を高めるほか、東部への製鉄所の拡張も検討する。

インドの粗鋼生産量は中国に次ぐ世界2位で、23年は前年比11・8%増の1億4020万トンとなり、上位10カ国で唯一、2ケタ%の伸びを示した。投資を積極化し、インフラや自動車向けの需要を着実に取り込む。

東南アジアについては、22年にタイの電炉メーカー2社を買収しており、現地で電炉から熱延製品を一貫生産する基盤を築いた。今後2社に対し、約60億円の戦略投資を実施する計画で、製品の品質やコスト競争力を高める。

日刊工業新聞 2024年08月30日の記事から一部抜粋

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