循環経済“カイゼン”でオフィス複合機「再生機」量産、富士フイルムBI鈴鹿の〝地の利〟
資源を繰り返し使うサーキュラーエコノミー(循環経済)への移行が急務となっている。実現には新製品とは違うモノづくりが求められ、資源の再生技術も必要だ。先行して取り組む富士フイルムビジネスイノベーションの鈴鹿事業所(三重県鈴鹿市)を訪ねた。製造現場でおなじみの「カイゼン」も駆使し、コピーや書類データ化機能が付いたオフィス複合機の再生機を量産している。(編集委員・松木喬)
1工場で複合機再生 分解→清掃→組み立て集約
鈴鹿事業所の工場内では作業者が慣れた手つきで部品を複合機に取り付けている。生産現場のようだが、普通とは違う。
ラインを流れるのは使用済みの複合機だ。作業者は複合機から部品を取り外し、清掃してから本体にセットし、元のように直している。10人目の作業者が組み付けを終わると、再生機が完成する。
1度使われた部品を再利用した複合機を再生機と呼ぶ。本体が使用済みでも内部には寿命前の部品が多く、再利用すると資源を節約できる。2010年に再生機事業を開始した当初、分解して取り出した部品を別の場所へ運び、清掃して再生機の組み立てラインに送っていたが、“ムダ”が潜んでいた。
製造に直結しないムダな作業を発見して排除するのがカイゼン活動の基本だ。再生機でも、分解と清掃のためだけの場所、分解から清掃、組み立てに運ぶ時間はムダだ。
そこで15年ごろ、分解→清掃→組み立てを同じ場所に集約。1ラインを10工程に分け、10人に分解から組み立ての作業を割り振った。場所を有効活用でき、工場を増設せずに再生機の生産能力を増やせた。
もちろん、すべての部品を再利用することはできず、新品の部品も必要となる。しかも複合機の使用状況によって消耗の具合が違うため、回収した製品ごとに求められる新品の部品が異なる。
そこでオフィスから回収後、複合機から印刷回数と通電時間のデータを収集し、消耗具合を4パターンで判定している。パターンごとに再利用と交換する部品が決まっており、判定に従ってラインに新しい部品を供給する。
鈴鹿事業所では新製品の部品も生産している。磯村英司事業所長は「モノづくりと同一拠点であり、根付いたカイゼン活動を再生機にも生かせる」と“地の利”を強調する。
黄変プラ、真っ白に 研磨剤、麻雀牌を再利用
資源循環を支えるのは生産革新だけではない。技術開発も大きく貢献している。その一つが、プラスチックの再利用だ。
複合機の外装カバーは、使っていると黄色く変色する。プラスチックの化学反応が原因だ。そこで、粒子状の研磨剤を吹き付けて黄ばみを除去する装置を導入した。50%だった外装カバーの再利用率は80%に向上した。
白さを復活させた研磨剤は、粉々に砕いた麻雀牌(まーじゃんぱい)だ。資源循環戦略推進部の岡崎仁グループ長は「変色した表面の“薄皮1枚”を削り取るために、硬過ぎない研磨剤を探していた。メラミン樹脂がちょうどよく、たまたま麻雀牌の素材だった。研磨剤に使うと、麻雀牌の再利用にもなる」と経緯を説明する。
「トナーキャリア」と呼ばれる材料の再生にも成功した。印刷時に樹脂であるトナーを運ぶ磁性粉がトナーキャリアだ。使用済み複合機からトナーキャリアを回収するが、廃トナーも混ざっているため分離が課題だった。そこで気流を発生させ、廃トナーだけを吹き飛ばす技術を確立した。分離したトナーキャリアは機能回復の処理を施して再利用する。
技術開発の積み重ねがあり、再生機に重量ベースで再利用部品を最大84%の使用できるまでになった。「満足せず、もっと再利用したい」(岡崎グループ長)と意欲的だ。23年度、新製品を含めたA3カラー機の国内販売数の15%を再生機が占めた。前年度比6ポイントの上昇だ。次は20%を目指す。
循環経済の実現には新しい技術が不可欠。他社や他業界でも生産革新や技術開発が起きそうだ。