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AIで公共交通維持・クラファンで映画支援…地銀、異業種に相次ぎ参入の背景事情

AIで公共交通維持・クラファンで映画支援…地銀、異業種に相次ぎ参入の背景事情

カンダまちおこしが支援する特撮映画「アユラ」の資金調達クラウドファンディング画面

地方銀行が子会社を通じ、農業や人材派遣、専門商社、ITビジネスなど異業種に相次ぎ乗り出している。営業地盤とする地域の活性化、顧客の利益拡大につなげることで収益基盤を強化するのが狙いだ。地銀を取り巻く事業環境は地方の人口減少やネット銀行の台頭、長引く低金利環境などを背景に、厳しい局面が続いている。こうした中、地域と向き合ってきた知見を生かし、新たなビジネスチャンスを生み出そうとする地銀の取り組みに迫った。(特別取材班)

規制緩和、業務にスピード感

「銀行員が会社をつくり長年にわたって運営できるのか、最初は不安がなかったわけではない」―。銀行に本業以外の業務を認める「銀行業高度化等会社制度」を通じて新会社設立にあたった、関東を拠点とする銀行の担当者は当時の心境をこう話す。不安を抱えつつも、うまく進めば「地域の持続的な発展に貢献できる」と期待して取り組みを推進したと振り返る。

銀行業高度化等会社は2016年の銀行法改正でできた制度。金融庁から認可を受けることで、銀行子会社として業務範囲規制の枠組みを超える事業を営むことができる。

銀行業高度化等会社の認可を受けた、地域デザインラボさいたま(ラボたま、さいたま市浦和区)の園田孝文社長は「(銀行やその子会社が認められる)業務範囲の線引きが難しいときがある。そのため(銀行業高度化等会社の)認可を受けられれば、業務範囲がかなり広がり、業務のスピードも格段と高まる」と同制度の長所を強調する。

銀行業高度化等会社は地域の特性や課題に合わせて設立されているため、全国各地でさまざまな取り組みが広がっている。

関東/河川活用、観光課題を解決

ラボたまは、埼玉りそな銀行が21年10月に設立した全額出資の銀行業高度化等会社。「これまで地域活性化に向けたまちづくりやオーバーツーリズム解消に向けた河川の利活用支援、新産業創出支援など、さまざまな地域課題解決の案件を手がけてきた」と園田社長は振り返る。5月には国登録有形文化財の埼玉りそな銀旧川越支店を改装した地域振興施設「りそなコエドテラス」の運営も開始した。「金融の枠を超えた新たな挑戦を続けたい」(園田社長)と意気込む。

ラボたまが運営する「りそなコエドテラス」

同じ埼玉県を地盤とする武蔵野銀行は、22年6月に100%出資の銀行業高度化等会社、むさしの未来パートナーズ(MMP、さいたま市大宮区、草生一英社長)を設立。同年10月から業務を始めた。会員制サービスの個人支援「彩・発見(さいはっけん)」と事業者向け商流支援プラットフォーム「IBUSHIGIN(いぶしぎん)」の2事業が柱。これらを両輪に銀行と相乗効果を発揮することを目指す。武蔵野銀の長堀和正頭取は、5月の決算会見でMMPについて「新たに自社商品の開発や販売、カタログギフトの取り扱いを開始して、事業の一層の拡充を進める」と意気込みを示した。

関西/AI使い公共交通維持

池田泉州ホールディングス(HD)は銀行業高度化等会社の池田泉州エリアサポート(大阪市北区、篠原共幸社長)を設立した。人工知能(AI)が運行管理を支えるオンデマンド型交通の運営が現在の事業の中心だ。従来同HDが手助けしてきた同交通の実証実験のうち、大阪府和泉市が4月から本格導入に移ったのを機に設立に至った。

池田泉州エリアサポートが運営するAIオンデマンド型交通の例

公共交通の維持は地域活性化に不可欠。さらに自治体やタクシー会社、住民、地元事業者など大勢の関わりで成立するため「地域の金融機関がやるのは理にかなっている」(池田泉州エリアサポートの岡田知也取締役)と説明する。社名どおり地域のさまざまな課題の解決を目指し、第2の柱探索も視野に入れる。

関西みらい銀行はみなと銀行と共同出資で経営課題の解決を伴走型で支援する銀行業高度化等会社、みらいリーナルパートナーズ(大阪市中央区、近藤雅裕社長)を持つ。関西みらい銀の西山和宏社長は「金融以外の面でも役に立ちたい」と意気込む。

インタビューシートを使って顧客の強みや課題を洗い出し、顧客自身の課題解決を促す「リーナル式コンサルティング」やデジタル変革(DX)実現支援を手がける。企業と消費者をつなぐ購入型クラウドファンディング(CF)サイトの運営も行う。同社は「地方銀行は地域と一心同体。地域貢献こそ最大の成長戦略」(西山関西みらい銀社長)の考えを示す一例となっている。

中部/クラファンで映画支援

カンダまちおこし(岐阜市、田代達生社長)は、十六フィナンシャルグループ(FG)の銀行業高度化等会社だ。愛知、岐阜、三重3県で地域活性化の支援として、ローカル版CF「おこす」、企業版ふるさと納税マッチングサービス「カラーズ」などを提供する。

岐阜名産のアユを題材とした特撮短編映画「アユラ」の制作では、8月末までの2カ月間のCFに目標金額150万円の2倍以上が既に集まった。「返済不要な外部資金などの『財源開発』で負担を軽減し事業化を可能にする」と田代社長は意義を説く。

あいちFGは、4月に独立系システム開発会社のエイエイエスティ(名古屋市中区、田中博道社長)を買収。あいちFG自身のIT化やIT人材育成のほか、子会社の愛知銀行、中京銀行の取引先のIT化をする。

8月には愛知県を地盤とする広告会社、新東通信(同、谷鉃也社長)との共同出資により、新会社「あいちFGマーケティング」を設立。取引先の広告やブランディングを支援する。あいちFGの伊藤行記社長は「グループ傘下に銀行業以外の各種業態のグループ会社を配置することで、金融を入り口として顧客のあらゆる課題解決サービスをワンストップで提供できる総合金融グループを目指す」と狙いを話す。

九州/中小つなぐ商社

ふくおかフィナンシャルグループ(FG)は、金属加工部品の商社事業を通じて中小製造業の振興を目指す。全額出資で設立したFFGインダストリーズ(FI、福岡市中央区)が機械メーカーなどから受注した部品加工の案件を地域の中小製造業に発注する。

ふくおかFGは金属部品の商社事業を通じて中小製造業を活性化する(受注企業の経営者から設備の説明を受ける、林田FFGインダストリーズ社長〈右〉)

「規模が違う企業に営業しづらく、地域内でも接点がないことは多い」(林田紘一FI社長)といった中小企業の課題を解決する。現場の操業度の平準化や生産性向上につなげ、地域経済を活性化する。グループ行のある福岡、長崎、熊本の3県で銀行の営業網を生かしながら業容を広げる。

日刊工業新聞 2024年08月23日

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