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東京五輪は大丈夫!?オリンピックの医療体制を考える。

文=猪口正孝(医療法人社団直和会、社会医療法人社団正志会理事長
東京五輪は大丈夫!?オリンピックの医療体制を考える。

新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供

 2020年東京でオリンピック・パラリンピックが開かれるにあたり、各方面で準備が進み始めましたが、いきなりエンブレムやスタジアムの問題でケチがついた、と騒がれています。私たち医療界も準備が進まなくて、実は心配しているのです。

 オリンピック・パラリンピックの医療はアスリートや大観衆に対する医療だけではなく、各国のVIPに対する、えらく気を使わなくてはならない医療や、世界各国からの観光客に対する宗教や外国語に配慮した市中の一般医療、ジカ熱・デング熱などの感染症に対する防疫的医療、そしてテロに備えた医療など多岐にわたります。

「人は集まるだけで」=「傷病者が発生」


 ことが運ばずイライラしていても仕方ありません。まずは大観衆つまり人が多く集まることに対する医療についてお話ししましょう。「人は集まるだけで」=「傷病者が発生」します。

 大規模野外コンサートや花火大会など大混雑した場所では、群衆雪崩がおき多数傷病者が出ることがあります。サッカーの試合やプロ野球では興奮したファンが頭に血を上らせケンカによる外傷や心血管疾患が増えることが知られています。また夏の甲子園のような暑い盛りのスポーツ観戦は熱中症の危険が増します。

 さらに東京マラソンのように3万人以上のランナーが走るような場合は足腰が痛くなる人たちばかりでなく、突然の心停止の危険性が高まります。このような傷病者の発生がわかっているのですから、予測できる事態に対しては、予防的対策がとられ、発症したときの準備をしておかなくてはなりません。それを「マスギャザリング医療」といいます。

熱中症の危険性が高く


 群衆雪崩がおきそうなところでは一方向に人の流れをコントロールする対策、サッカーなどではフーリガン対策として試合後の規制が大切です。その上で不慮の事故に対する救急車や救護要員の事前の配置が大事です。真夏のオリンピックに屋根がついていない競技場は、どう考えても熱中症の危険性が高いように思えます。

 事前の対策や救護室の規模はどうなっているのでしょうか?東京マラソンは開始以来心肺停止による死者は出していません。自動体外式除細動器(AED)の活用で人命を救っています。AEDの配備だけではなく、AEDを使えるバイスタンダー(救急現場に居合わせた人)を増やす必要があります。

 どこまでの想定をしたらいいのかその情報が回ってきません。医療はどうも後回しのようです。準備に時間のかかるものもあります。しっかりした準備をして、感動と興奮に包まれた素晴らしい東京大会になることを願うばかりです。
日刊工業新聞2016年4月1日ウイークエンド面「健康のはなし」
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
「ジカ熱」などの安全衛生や治安面の不安が叫ばれる今夏のリオ五輪。そんな状況をみると、4年後の東京五輪は?と心配になる。エンブレムの候補が決まったなどで盛り上がっている場合ではなく、アスリートが最大限の力を発揮できるためのケアをどうするのか。その議論を深めていくことこそ、「おもてなし」につながると思うのだが。

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