胃腸に優しい「A2ミルク」生産…東京農工大発VB、新技術で役立つ牛群を短期創出
東京農工大学発ベンチャーのPIXTURE(ピクスチャー、石川県珠洲市、今井比以呂社長)は、社会ニーズに適した「牛群」を短期間に創出する事業モデルを確立する。受精卵移植の成功率を高める同大の技術により、胃腸に優しい「A2ミルク」や、牛のげっぷに含まれる温室効果ガスのメタン抑制などに向いた牛を多数、生み出す。同大のファンドや施設、牧場を生かした食と環境・エネルギーの新事業で注目される。
牛の品種や牛の群の改良は交配で10年など年数がかかる。普及している人工授精は、母牛が固定されるため効率がいまひとつだ。父母を選べる体外受精卵の移植は、受胎率が低く機器も高額なため、受胎率向上の研究が多くなされている。
東京農工大グローバルイノベーション研究院の杉村智史教授(ピクスチャー取締役)が発明した技術では、受精卵の分割・成長過程を写真撮影で観察し、バイオマーカーなど独自の指標で受胎率が高くなるものを選び出す。受胎率を通常の20―30%から40―50%に高められるとみる。体外受精卵の他の選別法より、難産リスクを抑えられる可能性もある。
最初の狙いは市販されているが高コストのA2ミルクだ。牛乳を飲むと消化不良でおなかがゴロゴロする人は、牛乳中のたんぱく質「β(ベータ)カゼイン」に反応している。このβカゼインの遺伝子はA1型とA2型があり、A2型のみなら胃腸に優しい。
そこでピクスチャーは、A2型のβカゼインだけを含む牛乳のA2ミルクを生産する「A2牛」を、同大と連携して新技術で多数、生み出す。府中キャンパス(東京都府中市)と相模原市緑区の同大の牧場で、群れを作り出す実証試験につなげる。
事業モデルとして確立できれば、低脂質高たんぱくや乳肉複合生産向きなど、社会ニーズに対応した牛群をスピーディーに作り出すビジネスが可能になる。連携する同大は牛舎を改修。東京都に手続きをし、受精卵の製造・販売を可能にした。
ピクスチャーは同大と民間の連携による東京農工大ファンド(TUATファンド)の投資先第1号だ。文部科学省の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」の施設整備予算で、府中キャンパスに建設中の建物に来春、入居。地元住民にA2ミルクやA2ミルクアイスを提供しながら、新時代の畜産事業の理解促進を図る。