「高効率ジョイント」欧に移植、NTNが磨きかける生産技術
知恵結集、利益改善に挑む
NTNはスポーツ多目的車(SUV)や電気自動車(EV)などのタイヤに動力を高効率に伝える固定式等速ジョイント(CVJ)の生産を世界で相次ぎ始めた。次世代型のCVJで利益を改善する役割を担うのは、開発から製造まで一貫して手がける磐田製作所(静岡県磐田市)。マザー工場としてフランスとルーマニアの工場も支援し、高効率CVJの生産を両国で円滑に立ち上げた。従来と異なる生産技術や省人化を試み、収益力の向上に果敢に挑む。(大阪・田井茂)
「磐田製作所で実践したモノづくりの課題解決を持ち込み、順調に立ち上げられた」。NTNの直本和久CVJアクスル事業本部等速ジョイント工場長は、2024年春に高効率CVJの生産をフランス・ルマンとルーマニア・シビウの両工場で開始できた背景をこう説明する。CVJメーカーで世界2位のNTNにとって、売れ筋のSUVや市場が急成長するEV用の高付加価値な次世代型CVJは、決して負けられない戦略製品だ。
高効率CVJは回転を伝達するボールの転動溝が傾斜する独自構造。隣り合うボールの力が逆向きで片寄りを抑え、動力損失を減らす。CVJの作動角が大きく負荷もかかりやすいSUVやEVが搭載しても、損失は小さい。国内外のSUVに採用され磐田製作所が22年に生産を始めた。
複雑な構造のため、製造準備では難題が続出。転動溝が斜めで切削工具に通常でない力が加わり消耗し、加工部品を保持する治具の寿命も短くなった。だが開発や生産技術、製造、品質保証の各部門は組織を超え課題解決で協力。溝加工の機械を刷新し、負荷に強くなる形状に工具も変えた。治具の短寿命を克服し、複雑な形状を高精度に測れる測定機も内製した。「チームワークで技術力をすり合わせ、製造準備が整った」(直本工場長)。
欧州で受注した高効率CVJについては、コスト低減や迅速な供給を図るため現地生産を決定。主要部品を日本から送り、ルマンとシビウで24年春に組み立てを始めた。製造準備も磐田製作所で課題解決した方式を持ち込み、スムーズにこぎ着けた。直本工場長も前役職ではルマンに赴任し、欧州工場に生産技術を植え付けた。
「高効率CVJは引き合いが増えている。今の生産能力では供給が目いっぱいだ」(同)と次の課題も浮上する。そこでマザー工場の磐田製作所も新たな改善を試みる。機械加工の工程間連結や組み立て自動化を計画。工程間をコンベヤーでつなぎ部品を自動搬送し、組み立て工程の一部にはロボットも導入する。工程の待機時間を減らし組み立ても部分的に無人化し、知恵と限られた投資で生産性を高める。
岡山製作所(岡山県備前市)と子会社のNTN袋井製作所(静岡県袋井市)でも、高効率CVJの生産を増やす方針だ。自動車部品の価格は完成車メーカーの意向が強い。利益を改善するには、新たな付加価値を示すほかない。現場が一体となり知恵を出し、CVJ事業の好転を目指す。