ANA・JALはポートなど準備…実現目前“空飛ぶクルマ”の現在地
いよいよ“空飛ぶクルマ”が実現するのか―。国産の空飛ぶクルマの開発・製造に取り組むSkyDrive(スカイドライブ、愛知県豊田市)はJR九州と連携し、2026年以降に九州での事業化を目指す。25年の大阪・関西万博での商業運航は一部陣営が断念したが、空飛ぶクルマへの期待は依然として高い。航空大手2社は万博の先を見据え、離着陸所(ポート)などの準備を進める。新しい空の旅への挑戦を紹介する。(梶原洵子)
スカイドライブ、26年以降 JR九州と観光向け検討
空飛ぶクルマは正式には電動垂直離着陸機(eVTOL)という。1基の回転翼(ローター)で飛ぶヘリコプターに対し、複数のローターをうまく制御することでより安定的に静かに飛行できる。もし1基のローターが故障しても、残りを使って飛行、着陸できる。機体はヘリコプターより軽いものが多く、ポートの設置場所の選択肢が広がり、短い距離だが柔軟にルートを設定できる。
見た目は似ていないが、これらの特徴から自動車のような身近な乗り物にしたいという期待もあり、“クルマ”と呼ばれている。将来は自律飛行も想定され、空の移動の可能性を広げる期待がある。
「空からは(地上と)違う角度から九州の魅力を見ることができる」。JR九州の古宮洋二社長は、スカイドライブと取り組む空飛ぶクルマ事業への期待をこう語った。JR九州の駅などにポートを設置し、鉄道と空飛ぶクルマをスムーズにつなぎ、観光向けの運航を検討する。空飛ぶクルマに乗ること自体がレジャーになる。
スカイドライブはパイロットを含む3人乗り、航続距離15キロ―40キロメートルの機体を開発中で、「他社製よりも軽量なためコストが安くなる」(スカイドライブの福沢知浩社長)のが強み。すでに複数の国から多くの発注がある。26年度以降に日米で型式証明の取得を目指しており、型式証明の取得後、順次商業運航を始める方針だ。
JR九州との取り組みのほか、タイでは東急と現地財閥系企業の合弁会社などと協力し、空飛ぶクルマの事業化を検討する。東急はタイの事業モデルを日本に逆輸入することも視野に入れる。
駅をはじめ土地や施設を持つ鉄道会社と空飛ぶクルマは相性が良い。鉄道は駅から先の2次交通手段を、空飛ぶクルマはポート設置場所を得られる。JR東日本も「WaaS共創コンソーシアム」の中で、まず機体をヘリコプターで代用して実証実験し、将来性を検討している。
4陣営、万博でアピール
大阪万博は空飛ぶクルマを目玉の一つとして、スカイドライブを含む4陣営での商業運航を企画していたが、同社は開発の遅れからデモ飛行に変更した。開発が進むにつれて、「安全を担保するために取り組むべきことの詳細が見え、解像度が上がったため」(福沢社長)と説明する。
計画通りにはいかなかったが、一般的に航空機開発には長期間かかる。18年創業のスカイドライブが7年で空港以外の場所でデモ飛行するのは大きな前進だ。「商業運航できないのは残念だが、最後発の我々がここまで進んだことを見せたい」(同)と意気込む。
ANA、都市利用視野/JAL、運航会社設立
全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)は、大阪万博での商業運航とその先の運航サービスを見据えて準備を進める。両社が使用するeVTOLは、業界をリードする海外企業が開発している。
ANAが採用する米ジョビー・アビエーションの「ジョビーS4」は静音性の高さが特徴で、5人乗り、航続距離160キロメートルの機体だ。アメリカ連邦航空局(FAA)の型式証明プロセスの5段階中3段階目の適合証明計画の内容についてFAAと合意し、4段階目を進めるところまで来た。3段階目の到達は米国初だ。25年の米国内商用サービス開始に向けて順調に進んでいる。
日本での商用運航には型式認証と商用運航の認可が必要となる。22年10月に国土交通省へ型式認証の申請を行い、商用運航の認可も検討している。
ANAは万博以外でもジョビーと連携し、関東や関西で半径100キロ―150キロメートル圏内の都市部のエアタクシーサービスの立ち上げを目指す。このほか、ポートの設置は、野村不動産やイオンモールと検討を進めている。
JALが万博での運航に向けて取り組む独ボロコプターの機体「ボロシティ」は、キャビンの上のリング状部材に複数のローターが配置された独特のデザインとなっている。2人乗りで航続距離は35キロメートルを予定する。
JALは、万博後の事業展開について決まったものはないとしつつ、「まずは遊覧・周遊体験や災害・救急救命対応などの検証を通じて社会受容性を高めていきたい」(同社)としている。
また、同社は住友商事と折半出資で空飛ぶクルマの運航会社「Soracle(ソラクル)」を設立した。両社は20年にエアモビリティー分野で業務提携を結んでおり、新会社を通じ協力関係をさらに強固にする。運航開始時期などは今後検討する。三菱地所や兼松とも、都内での空飛ぶクルマサービスの実現に向けた実証プロジェクトを進めている。
海外ではさらにユニークな取り組みもある。米サムソンスカイや米ASKAといった新興企業は自動車から飛行機に変身する本当の意味での“空飛ぶクルマ”の開発を進めている。挑戦は一層多様なものとなっている。