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課題は建造効率…波に乗れるか、「新燃料船」の行方

課題は建造効率…波に乗れるか、「新燃料船」の行方

大島造船所が三菱重工から取得した香焼工場

国際海運のカーボンニュートラル温室効果ガス《GHG》排出量実質ゼロ)実現に向け、メタノールや液化天然ガス(LNG)、アンモニアなど新燃料に対応した新造船の発注が進む。造船業界は商機を逃さず、受注を積み上げているが、課題は建造効率だ。需要の大波を捉え、持続成長の道筋を確かなものにするには新燃料船の建造体制整備が不可欠。艤装岸壁の拡張をはじめ、設備投資機運が高まる。

艤装岸壁拡張、工数改善で建造効率向上

「今後さらに代替燃料船の建造比率が高まることを見据え、艤装岸壁の強化など設備投資を検討中だ」。今治造船(愛媛県今治市)の檜垣幸人社長は明かす。すでに丸亀事業所(香川県丸亀市)の艤装岸壁を拡張し、LNG燃料焚(だ)き自動車運搬船を連続建造しており、今後はさらに「アンモニア燃料タンクや液化二酸化炭素(LCO2)タンクの内製化を含む調達方法について検討中」(檜垣社長)という。

艤装は岸壁につながれた船体に室内外の各種設備や配管などを取り付ける工程。新燃料船ではこの工数が増える。ジャパン マリンユナイテッド(JMU、横浜市西区)は有明事業所(熊本県長洲町)の艤装岸壁を拡張する方針を固めており「新燃料船の工期・工数増加に対する改善を狙い、生産性を15%向上させる。設備投資により従来の工数とすれば、年間の建造能力を維持できる」(灘信之社長)と見込む。

大島造船所(長崎県西海市)が三菱重工業から香焼工場(長崎市香焼町)を取得した理由の一つにも艤装岸壁強化がある。

ライバルの韓国や中国でも建造設備を増強する動きが広がっており、韓HD現代三湖は530メートル規模の新たに艤装桟橋を完成したと発表した。

底堅い新造船需要、30年代世界1億総トンに復調

国際海事機関(IMO)は国際海運のGHGを2050年ごろまでに実質ゼロにする目標を掲げる。ゼロエミッション船舶への代替などで「底堅い新造船需要があるのは明白」(日本造船工業会の金花芳則会長)だ。世界の新造船需要は10年ごろに年1億総トンを超える大量建造期を迎えたが、その後は5000万―6000万総トン程度と低迷。今後は代替需要や経済成長に伴う海上荷動き増加により30年代早々には再び1億総トンの大台を取り戻し、高原状態が継続するというのが日本造船工業会の見方だ。

政府は「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」を活用し、ゼロエミッション船などの建造に必要なエンジン、燃料タンク、燃料供給システムの生産基盤の構築・増強、ならびにそれらを艤装するための設備投資を支援するため、5年間で600億円規模を補助する。また、経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)として、デジタル技術を用いた高性能次世代船舶開発なども後押しする。

好調な受注に支えられ、日本の造船大手は3年分を超える手持ち工事を抱えている。わずか4年程度でどん底から急回復した。鋼材高や資機材高騰など逆風はあるが、船価は高止まりしており「長いトンネルから抜け出してきた」(今治造船の檜垣社長)。海運マーケットは堅調で、足元では28年以降の竣工を見据えた先物の商談が展開されている。

ただ、人手不足など大きな課題は残されたまま。造船の国際競争環境を大きくゆがめるような韓国、中国の自国政府による公的支援も続く。体力を取り戻している今こそ「日本の造船会社は連携、協業を深めるべきだ」(海運大手幹部)との声もある。大規模投資により設計、建造効率を高め、関連業界と連携してサプライチェーン(供給網)の高度化を進めつつ、海事産業の強固な基盤を再構築できるか。好機を逃してはならない。

日刊工業新聞 2024年8月12日

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