水素大量供給実現…福島県小名浜・相馬港、アンモニア輸入基地に
福島県の小名浜港(いわき市)と相馬港(相馬市、新地町)で、グローバルネットワークの最も早い実現が見込まれる水素キャリアとして活用するアンモニアの輸入基地計画が始動した。カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)港の形成を目指す。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が取り組む福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R、浪江町)などで製造する水素の地産地消と、海外から大量調達した水素の大型発電所への供給実現を支えるユニークな事業となる。(いわき・駒橋徐)
福島県は2040年にも再生可能エネルギーで県内のエネルギー需要100%をカバーすることを目指し、水素社会実現のための地域モデルの創設事業を進めている。これまでの燃料電池車(FCV)導入台数は458台と東北地方で最多。FCバス・キッチンカーや、FC3トントラックなどモビリティー部門の取り組みが中心で、FCトラックにも対応する大型水素ステーションを開設した。
定置式燃料電池は50キロ―100キロワット級を設置。工場での水素利活用ではデンソー福島(福島県田村市)が再生エネ由来の電力で水素を精製してガス炉で熱利用しているほか、住友ゴム工業白河工場(同白河市)は水素を活用したタイヤ製造の実証を進める。FH2Rでは日揮ホールディングス(HD)が24年度の完成を目指してグリーンアンモニアの実証プラントを建設中だ。
今後、水素の大量供給にはグローバル化が必須であり、福島県は小名浜港と相馬港で、アンモニア輸入を核にしたCN港実現に動き出した。アンモニアは直接燃焼と分離水素燃焼ができ、水素キャリア(水素の大量貯蔵・運搬)として重要性が高まるためだ。
小名浜港は福島県が約2年かけて検討してきた港湾脱炭素化推進計画をまとめ、アンモニアの供給目標を30年度に年5万2000トン、50年に同1560万トン、水素で同47万トンとした。
相馬港もCN港に向け、カーボンニュートラル相馬港推進協議会に23社が参加して検討を開始。福島県は24年度末までにアンモニアなどの需要・供給目標をまとめる。相馬港付近では石油資源開発やIHI、三菱ガス化学など5社が海外からアンモニアを輸入する拠点構築の検討に入った。これに伴い、IHIが大型ガスタービンのアンモニア燃焼プラントを具体化する可能性が高い。
小名浜港のCN化では、石炭ヤードとして現在使われている東港地区の外側エリアの活用と、沖防波堤の拡張が課題となる。いわき市は市長を中心に関連企業などで構成する小名浜港整備促進同盟会のトップが国土交通省に出向き、次世代エネルギーに関わる東港一体の今後の整備を要請。CN化を官民一体で目指す姿勢を示した。
福島県は小名浜港の長期構想を今秋にまとめ、27社で構成する小名浜港CN化推進協議会とともに具体的な取り組みを進め、両港ともグローバルなアンモニア供給基地を目指す。
アンモニア専焼ガスタービン発電を世界で初めて実証した産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所(郡山市)の古谷博秀所長は「水素キャリアは現状は玉虫色だが、火力発電で大量に使うにはアンモニアが有利」とした上で、「水素キャリアの供給、水素の地産地消に関して、すでにあるインフラも上手に使っていくことが日本の強みになる」と話す。