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文科省とJICA連携…科学技術外交の“一石三鳥”は実現するのか

共創 科学技術外交(上)

政府開発援助(ODA)を活用し科学技術外交が強化される。日本と開発途上国の研究者が共同研究を進めて、地球規模課題の解決と両国の協力強化、自立的研究開発能力の向上などの“一石三鳥”を狙う。大学だけでなく、企業に所属する研究者も巻き込み社会実装を加速する。従来よりも多様な主体が科学技術外交に参画することになる。課題は技術系研究者が途上国に明るくない点だ。一石三鳥は実現するのか。

「途上国と同じ視点、同じ言葉で話せる人材を増やさなければ」と松本洋一郎外務大臣科学技術顧問は腐心する。「科学技術外交とODA」の提言書を外相に提出した。科学技術振興機構(JST)の地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)などの実績を基に国際頭脳循環や共創活動を広げることを提言している。SATREPSは科学技術外交の“一石三鳥”を狙ったプログラムだ。国際科学技術協力の強化と、地球規模課題解決を通したイノベーション創出、キャパシティー・ディベロップメント(総合的な課題対処能力向上)の三つを目指す。

ただ日本の技術系研究者は途上国の事情に明るくない。自身の研究活動に途上国の社会課題分析が含まれていないためだ。知識として課題やニーズを理解しても相手国の政策や実施者が分からない。そのため自然発生的にはプロジェクトが生まれない。誰かが旗を振り、シーズやニーズ、推進事業者を集めて企画する必要がある。

そこで国際協力機構(JICA)は共創拠点を立ち上げる。大学などの研究者と途上国開発の専門家でアジャイルに技術開発や事業化を試す。予算はSATREPSと同様に5年間で最大3億円程度を検討している。

この共創拠点は22年に始めたDXラボをモデルとしている。DXラボではベンチャーなどの設立間もない事業者が参加できるように資格要件を緩和した。6―9カ月程度で概念実証(PoC)を実施し、プロジェクト後の出口戦略に進む。

例えばインド・オリッサ州林業セクター開発協会とはカーボンクレジットを算出するためのAPI(応用プログラムインターフェース)などを開発する。植えた木の種類や数、日にちなどの活動記録や衛星画像といった断片化している情報を整理して可視化する。ザンジバルのザンジバル水道局とは配水管からの漏水・盗水対策技術や顧客管理、料金請求、支払いシステムを開発する。JICAの高樋俊介STI・DX室長は「短期間で技術を試し、PoC後はベンチャーキャピタル(VC)との連携などで事業化を支援する」と説明する。

文部科学省と外務省の連携で研究者同士のつながりや共創の場は強化される。研究開発後の事業化も支援が厚くなる。知恵と人が集まり、科学技術外交の一石三鳥が実現するか注目される。

日刊工業新聞 2024年07月09日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
テクノロジー系の研究者にとって途上国の課題は論文のイントロには書いたとしても、実際に課題解決に当たることはまれでした。役割が違う、論文効率が悪い、実証の場がないなど、理由はいくつもあります。そのためSATREPSも案件形成が難しいそうです。予算としては競合が少なくて狙い目かと思いきや、要求レベルが高くて断念することもあるはずです。大学発ベンチャーを持っている研究者が向くのだと思います。アフリカで水の浄化に取り組んでいる材料研究者は国内では国内事業者と組んで実用化し、アフリカではSATREPSで実績を作って、その成果を元にVCを口説いていました。事業化はそれだけだと厳しくて材料とデータビジネスを組み合わせるなど、ビジネスモデル面でもイノベーションが必要です。そうした知恵や人脈を獲得するのにもSATREPSは機能するかもしれません。普通の研究者とはちょっと違いますが、こうした挑戦が求められているのだと思います。

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