円の購買力はピークの約3分の1、賃上げ率5%も喜べない事情
連合は3日、2024年春季労使交渉(春闘)の最終回答集計を発表する。6月3日時点で賃上げ率(加重平均)は5・08%に達しており、最終集計も33年ぶりの高水準で着地する見通しだ。労使がデフレからの完全脱却に向けて、歴史的な賃上げに取り組んだと評価したい。
ただ春闘が始まった3月と比べ、足元の円ドル相場は約12円も円安に振れた。物価高騰が春闘の成果を減殺し、個人消費の回復が遅れないか懸念される。
連合によると、定期昇給(定昇)とベースアップ(ベア)を合わせた賃上げ率は6月3日時点で5%を超え、300人未満の中小組合も4・45%と13年以降では最高の伸び率を示した。非正規の時給の伸び率も5・74%と一般組合員を上回る。高水準の賃上げ率は最終集計でも継続するとみられる。今春闘は日銀に17年ぶりの利上げを促しており、日本経済は春闘を起点に賃金も金利も物価も上昇する拡大均衡に向かうと期待したい。
ただ、春闘が始まった3月の円ドル相場が1ドル∥149円台(月間の平均レート)だったのに対し、足元は同161円台と大幅な円安に陥った。進行する円安が歴史的春闘に水を差し、家計の節約志向が長期化しかねない。円の購買力を示す実質実効為替レート(20年∥100)は5月に68・65%と過去最低を更新しており、輸入物価の先行きを警戒する必要がある。
日銀は30、31の両日に開く金融政策決定会合で、国債購入額の減額幅やペースを公表する予定だ。追加利上げの可能性も取り沙汰される。だが日米の政策金利差5%超を勘案すると、大幅な円安是正は期待しにくい。政府・日銀による円買いの為替介入も時間稼ぎに過ぎない。政府が8―10月に講じる電気・ガス代への政府補助も効果は限られ、1―3月期まで4四半期連続マイナスの実質個人消費を喚起するのは容易ではない。
米連邦準備制度理事会(FRB)は9月にも利下げに転じ、25年は4回の利下げに動く可能性がある。25年にかけて円安是正に向かい、日本の実質賃金の増加が定着すると期待したい。