歴史的「円安」と中小企業、望む「110―135円」遠く
約38年ぶりの円安進行が、中小企業の経営を脅かしている。日本商工会議所の調査によると中小企業の7割が望ましい為替レートを「1ドル=110円以上135円未満」とし、過半の企業が円安は業績にデメリットと回答している。4割の企業が仕入れコストを価格転嫁できずに収益が悪化しているという。不十分な価格転嫁を背景に、大手企業との賃上げ率も格差が付いており、あらためて取引適正化の取り組みを強化したい。
日商によると、54・8%の企業が円安は「デメリットが大きい」と回答。前回の2023年11月調査より7ポイント増えた。同11月の平均レートが1ドル=149円台、足元は同161円台と前回調査から約12円も円安が進行した影響が大きいとみられる。
望ましい為替レートは「1ドル=120円以上125円未満」が最も多い17・4%で、69・5%の企業が「同110円以上135円未満」に収まる。実体との乖離(かいり)が大きく、内需に依存している中小企業の業況が一段と悪化しないか懸念される。
円安デメリットの内容(複数回答)は、原材料などの仕入れ価格上昇に伴う負担増が88・6%、燃料・エネルギー価格上昇に伴う負担増が77・5%で、43・3%の企業が仕入れコストの増加分を販売・受注価格に転嫁できずにいる。サプライチェーン(供給網)全体の利益が中小企業に十分に分配されておらず、政府が目指す「構造的な価格転嫁」の実現が待たれる。
政府は取引適正化に向けて下請法改正を検討するほか、転嫁率の低い業界に自主行動計画の策定や改定などを求めるとしており、取り組みに期待したい。
連合による24年春季労使交渉(春闘)の最終集計によると、組合員300人未満の中小組合の平均賃上げ率が4・45%なのに対し、300人以上は5・19%と格差が広がった。上場企業の24年3月期決算の当期利益は3年連続で過去最高を更新したものの、価格転嫁が十分でなかったことが格差の背景にある。中小企業は24年度最低賃金引き上げも控える。親企業の理解・協力をあらためて求めたい。