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経営不信感高まる…“異例の事態”起きたシャープ、成長戦略どう描くか

経営不信感高まる…“異例の事態”起きたシャープ、成長戦略どう描くか

27日付で、シャープの新社長に就任した沖津氏(中央)

シャープの経営が混乱を深めている。定時株主総会の前日に突如社長人事を発表するという異例の事態が起きた。呉柏勲社長が退任して副会長執行役員に就任し、沖津雅浩副社長が社長に昇格。経営不振の責任は明確になった一方、ガバナンス(企業統治)の体制が整っているとは言いがたい。27日に堺市堺区の本社で開いた総会に参加した株主からは「先が見えない」との声が上がり、シャープの経営に対する不信感は高まっている。(特別取材班)

“尖った”商品に集中投資

「(売上高)2兆1000億円を本当に達成できるのか。私はできないと思う」―。27日のシャープの定時株主総会で株主から厳しい質問が飛んだ。同日、中期経営方針の進捗(しんちょく)や今後の事業展望について説明があったものの、経営目標達成指標(KGI)などの数字は示されず具体性を欠いていたためだ。

シャープ本社の総会会場に入る株主

27日付で社長を退任した呉副会長には、計4100億円に上る2期連続の当期赤字を計上したことを「経営者として失格ではないか」と追及する声が上がった。呉副会長は経営不振について陳謝するとともに「ステークホルダーの期待に応えられなかったことを強く受け止めている」と述べた。沖津社長は「早い判断で業務にまい進したい。“選択と集中”で“尖った”商品にどんどん投資する考え方でやっていく」と方針を示した。

データセンターに活路

シャープはどのような成長戦略を描いているのか。まず液晶パネルや半導体などの「デバイス事業」を縮小し、赤字を止めて利益が出る事業規模にする。大型液晶パネルを生産する堺工場は2024年9月末までに生産をやめ、大規模人工知能(AIデータセンターに転用。中小型液晶パネルの亀山工場(三重県亀山市)は6月末までに生産能力縮小を完了させる見通しだ。

その上で、家電や複合機などの「ブランド事業」に経営資源を振り分け、成長を図る。同事業は、円安やインフレなどの外部環境悪化に対しても安定的に利益を上げている。

沖津社長は「(液晶テレビの)アクオスは23年秋以降、日本国内のシェアを伸ばしてきた」と事例を示し、自信を見せる。だが、株主から「他社にまねされる商品が出ていない」と指摘されるように競争力には疑問が残る。経営の混乱や事業縮小で人材の流出も懸念される。投資の原資を捻出し、魅力的な商品を生み出せる組織をつくることが求められる。

また、新事業領域に位置付ける生成AIや電気自動車(EV)分野では、5月に経営トップが主導する新たな全社プロジェクトを発足した。沖津社長は「(台湾・鴻海精密工業は)AIサーバーやEVも作っており、その技術を受けて新しい事業の推進スピードを挙げたい」と、事業化を加速する考え。とはいえ、シャープと鴻海の連携でどのような事業を生み出せるのか、現時点で具体的な展望を示せておらず、実現できるかは不確かだ。

呉前社長、赤字続きのまま退任

呉副会長が社長に在任した2年間、シャープの経営は赤字続きだった。原因は22年3月に当時の戴正呉社長の下で決めた大型液晶工場「堺ディスプレイプロダクト(SDP、堺市堺区)」の買い戻しだ。

シャープはSDPへの過大投資などが原因で経営不振に陥り、16年に台湾・鴻海精密工業の傘下に入った。鴻海の下でシャープは17年3月期を最後に当期赤字から脱し、コロナ禍などに見舞われながらも黒字経営を続けてきた。

その中で決まったSDP買い戻しには、疑問を呈する声が多かったが、呉副会長は22年4月、会長兼最高経営責任者(CEO)の立場で「テレビ以外へのシフトも考えており需要は増える。買い戻しは正しい判断だ」とし、買い戻しを支持した。しかし、SDP子会社化後、大型液晶パネルの市況は低迷し、中型パネルへの事業転換も進まずにSDPは赤字に陥り、シャープ本体も再び当期赤字に転落した。

呉副会長は24年5月になって、当期赤字の最大の要因が「ディスプレイデバイスの不振」であり、各事業への投資が不足して市場開拓などが進まずに競争力が低下する「負のサイクルに陥った」と経営の失策を認めた。

同時にSDP稼働停止と中小型液晶事業の縮小、半導体などデバイス事業の撤退、人員削減などの構造改革策を発表。家電やオフィス機器、通信機器などに集中しつつ、AIやEVなどに挑戦し「既存のブランド事業と新産業の正のサイクルを創り、持続的成長を実現する」と宣言したが、施策を実行する前に社長を退くことになった。

賃貸・人員出向、液晶工場の活用模索

沖津社長の新体制で最初の課題となるのは、当期赤字の原因である液晶パネル事業の構造改革を進めることだ。コスト競争力で勝る中国勢などとの競争環境が厳しいほか、スマートフォン向けの需要も減少しており、事業を縮小せざるを得ない状況だ。

そのため、大型液晶工場のSDPは9月末までに稼働を停止する。現在は供給責任を果たすため、「パネルの作りだめをしている」(パネル業界関係者)という。稼働が止まった後のSDPは、建屋や電力供給インフラなどを生かし、ソフトバンクKDDIなどがAIデータセンターとして活用する方向で検討を進める。SDPの一部の従業員は、熊本県にあるソニーの半導体工場に出向させる方向で、「既に一部の社員には辞令も出た」(半導体業界関係者)との話も聞かれる。

SDP以外でも稼働率が低下する液晶工場の活用策を模索しており、三重工場(三重県多気町)や亀山工場(同亀山市)では、建屋を半導体関連企業に従業員付きで貸し出す交渉が進む。

シャープは液晶事業を需要に合わせて縮小し、余剰の工場を旺盛な設備投資が続く半導体やAIデータセンターといった成長事業に向けて売却、賃貸し収益改善を図る考え。ただ、現時点では具体的な決定事項は公表されておらず、25年3月期に目指す当期損益の黒字化にどの程度貢献できるかはまだ見通せていない。


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日刊工業新聞 2024年06月28日

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