物流逼迫の根幹「商慣行」見直しに踏み込む、ヤマトHDが新会社
ヤマトホールディングス(HD)は、共同輸配送を推進する新会社「サステナブル・シェアード・トランスポート(SST)」を設立した。情報基盤を介して、幹線輸送を中心にさまざまな事業者のトラックの空きスペースと荷物をパレット単位でマッチングする。物流逼迫(ひっぱく)の根本にある商慣行の見直しに踏み込み、貸し切り中心の物流の変革を目指す。
「今は各荷主がプライベートジェットを飛ばしているようなものだ。考え方を変えずにマッチングをやるだけでは効率化に限界がある」と高野茂幸SST社長(ヤマト運輸グリーン物流事業推進部長)は指摘する。同社が行うのもマッチングだが、「構想としては皆でプライベートジェットを止め、相乗りする定期便をつくっていく」(高野社長)。
とはいえ、荷主にとっては定期便より希望通りに荷物を運んでくれる貸し切り輸送が便利だ。そこで、まずは積載率の悪い半端な路線でのSSTの利用を提案する。「荷主の要望に沿いつつ、定期便に近づくように運行を調整する」(同)。
例えば、翌日2時に顧客の倉庫に届けるため15時に出荷している場合、出荷時間を変えずに幹線輸送の発着場所まで地域内輸送を手配し、19―0時の幹線輸送の便に載せることなどを考える。載せ替え時間が発生するが、「既存の運行は互いが安全をみて時間に余裕を持たせる場合が多い」(同)ため、配達は間に合うという。
さらに幹線輸送の時間をずらすと安くなるなどの情報もSSTから提供する。これまで荷主はこうした情報を知る機会があまりなかった。利点を示して発荷主が着荷主に輸送計画変更を相談するきっかけを作り、物流の平準化につなげる。
輸送の担い手は物流事業者に参画を呼びかける。物流関連の法改正をにらみ、SSTを介して輸送を担う場合は多重下請けは利用しないなどのルールを設ける予定だ。荷役の作業時間なども端末で記録し、「SSTに頼むだけで、荷主は法改正に対応できるようにしたい」(同)という。
5月にSST設立を発表すると、荷主や物流事業者、テック系企業から多くの反響があり、早くも7月から2社の輸送を担う見込みがついた。SSTの事業認可が出るまでヤマト運輸が事業を担う。
SSTは協力企業を募り、2024年度内に第三者割当増資を行い、ヤマトから案件を引き継いで事業を始める。25年度末に幹線輸送で1日80線便の運行を目指す。高野社長は「荷主と一緒に商慣行を変えたい」としている。